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事故多発する「つくばエクスプレス」、労基署に告発も(片岡伸行)

2016年9月13日6:15PM

8月23日夕の北千住駅。秋葉原行きつくばエクスプレスの発着時、駅ホームには係員の姿はなし。5月24日にはここで、高齢男性の杖がドアに挟まれるトラブルが起きた。(撮影/片岡伸行)

8月23日夕の北千住駅。秋葉原行きつくばエクスプレスの発着時、駅ホームには係員の姿はなし。5月24日にはここで、高齢男性の杖がドアに挟まれるトラブルが起きた。(撮影/片岡伸行)

つくばエクスプレスで問題が多発している。8月18日に千葉県・南流山駅でドア挟み事故、同28日には危険ドラッグ所持容疑で運転士の逮捕……。内部告発を元に取材を進めると、運行する首都圏新都市鉄道(株)の安全軽視の経営実態が明らかになってきた。

多発するドア挟み事故

第3セクター方式で設立された「つくばエクスプレス」(TX)が開業し、8月24日で11年。研究学園都市(つくば駅、茨城県)からIT(情報技術)の街(秋葉原駅)まで58・3キロメートルを最速45分間で結ぶ、踏切なしの快適路線だとPRされる。しかし……。

後に掲載するように、4、5月の2カ月だけで6件の事故・トラブルが発生。とくに「ドア挟み」は死傷事故に直結する危険性がある。つくばエクスプレスの車両ドアは厚さ1・3センチ以上の物の挟み込みを検知すると、発車できない仕組みになっている。しかし、八潮駅(埼玉県)と流山おおたかの森駅(千葉県)のトラブルでは、いずれも検知の基準未満だった上、運転士や駅ホーム係員も気づかなかったという。

事故・トラブルの連続発生を重く見た関東運輸局鉄道部の安全指導課による保安監査が5月24日から4日間実施された。翌6月21日、つくばエクスプレスを運行する首都圏新都市鉄道(株)(柚木浩一代表取締役社長、本社・東京都台東区)で、柚木社長以下役員と幹部の出席による2016年度「第1回鉄道安全委員会」が開かれた。当然ながら、安全対策が主題だ。ところが、この会議では以下のような驚くべき発言がなされたという。

柚木社長が「出発時の車両ドアへの荷物挟み込み事故」について、「今までにも同事象は発生していたのか」と、まるで部外者のような質問をする。それに対し、「運輸部」が、2012年度=5件、13年度=11件、14年度=14件、15年度=12件、16年度=4件(4月1日から6月20日までの2カ月半余の期間のみ)と、過去5カ年度の発生件数を報告。すると、柚木社長は「年間10件前後発生しているのであれば、現時点では減少傾向である。しかし、しばらく経つと同事象が再び発生する可能性もある」などと言い放ったという。

同日までの2カ月半余でドア挟み事故が4件発生しているにもかかわらず、どのような判断基準で「減少傾向」と言えるのだろうか。

しかし、この柚木社長のひと言で、ドア挟み事故対策は「ソフト面による対策」(列車乗務員や駅係員による対応強化)を講じることになり、JR東日本や東京メトロなどで導入しているホームドアの「3Dセンサー」など、同社の試算で十数億円かかるとされる「ハード面の対策」は事実上先送りされた。安全にカネはかけず、社員任せの対策を優先した格好だ。

どこが「減少傾向」か!?

柚木社長は、08年には国土交通省運輸安全委員会事務局長を務めており、国交省本省からの“天下り”だ(前職は東京メトロ)。同社の現役乗務員Aさんは言う。

ホームドアセンサーは上下に2カ所(印)。その間に挟まった物は検知しない旧式のものだという。(撮影/片岡伸行)

ホームドアセンサーは上下に2カ所(印)。その間に挟まった物は検知しない旧式のものだという。(撮影/片岡伸行)

「2カ月あまりでドア挟み事故が4件発生しているのに、『減少傾向』と言うのは安全軽視の、恐ろしい発言。その発言に、誰も疑問を差し挟まないのもおかしい」

実は、関東運輸局による保安監査初日の5月24日、北千住駅(東京都)で区間快速に乗ろうとした高齢男性の杖がドアに挟まれるトラブルが起きた。前述のとおり、同社の検知器は古いタイプのもので、細い杖が挟まれても検知できない。未公表のこのトラブルを同社に確認すると、いったんは「まったく把握していない」(広報課)としたが、「当事者から苦情を受けた本社運転課が北千住駅に連絡をしているはず」と指摘すると、一転して苦情があったことを認めた。あまりに杜撰な対応ではないか。

「しばらく経つと同事象が再び発生する可能性もある」との柚木社長の“予言”はその後も的中する。7月13日には、流山おおたかの森駅で乗客が車両とホームの間に挟まれ転落、そして今回の杖挟み事故と運転士逮捕である。労働現場で何が起きているのか。

(かたおか のぶゆき・編集部、全文は『週刊金曜日』9月9日号でお読みください)

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「つくばエクスプレス」で起きた事故・トラブル2016年4月〜8月

▼4月13日 車両基地で、木製の手歯止め(車輪とレールの間に噛ませるくさび形の器具)が置かれたまま発車するトラブル。

▼4月28日 午前7時40分ごろ、埼玉県の八潮駅で上りの快速列車が乗客のバッグと傘の一部をドアに挟んだまま発車。

▼5月14日 八潮駅で乗客のバッグをドアに挟んで走行、隣の六町駅手前で緊急停止。

▼5月16日 流山おおたかの森駅で乗客のバッグの一部をドアに挟んだまま走行。

▼5月19日 北千住駅で降車客から荷物が挟まっているとの申告があり運転士が対応。

▼5月24日、北千住駅で区間快速に乗り込もうとした高齢の男性の杖がドアに挟まれる。

▼7月13日 流山おおたかの森駅で乗客が車両とホームの間に挟まれる転落事故。

▼8月18日 午前11時20分ごろ、南流山駅で上り快速電車に乗り込もうとした70代の高齢者の杖をドアに挟んだまま隣の三郷中央駅近くまで走行し緊急停止。

▼8月28日 40代の運転士が14年8月に危険ドラッグを所持していた疑いで逮捕。

(同社発表などに基づき筆者作成)

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