「汚染区域」は解除できず、環境基準からも疑問符――豊洲では「安全宣言」出せない
2016年9月20日10:31AM
「安全性への懸念、巨額かつ不透明な費用の増加、情報公開の不足」の三つの疑問点をあげ、8月31日、小池百合子・東京都知事は築地市場の11月に予定していた豊洲移転の延期を発表した。そして、「市場問題プロジェクトチーム」を設置し、2014年11月に2年間に9回の予定で開始した地下水モニタリングの残る2回(今年10月と来年1月に公表)の結果で安全性を確認し、新たな移転時期を決めると述べた。
土壌汚染対策法(土対法)は、「地下水汚染が生じていない状態が2年間継続すること」で「汚染区域」(形質変更時要届出区域)の指定が解除できるとする。
しかし、都の環境局は、筆者の取材に「2年間のモニタリングに法的な意味はまったくありません」と言い切った。それは、都の中央卸売市場が汚染を東京ガスの操業由来と元々あったヒ素など自然由来に分け、操業由来は掘削・除去するが自然由来は除去せず、盛り土などで封じ込めただけで残っているため、これまで7回のモニタリング結果は環境基準を下回っているが、残る2回が下回っても土対法により、「汚染区域」は解除できないからだ。市場は、地下水で環境基準の10倍以上は操業由来、環境基準を超えるが10倍以下は自然由来と区別している。
だが、それなら一体何のためのモニタリングなのか。環境局は、「土対法上の汚染区域の台帳を作る事務手続きのため」と答えた。
8月16日に小池知事が築地・豊洲両市場を視察した後のぶら下がり取材で、筆者は「豊洲は土対法上の『汚染区域』になっていて、安全宣言をするには『汚染区域』を解除しなければならないが、どう考えるか」と聞いた。知事は「モニタリングで都民も私自身も納得できることが必要。さらに様々な調査を確認し総合的に判断したい」と答えた。「汚染区域」は残る2回のモニタリングで環境基準を下回っても解除できないという重要な事実が知事に報告されていないのではないかと感じた。
この自然由来・操業由来の区別について日本環境学会元会長の畑明郎・元大阪市立大学教授は、「東京ガスはヒ素を触媒として使っていたし、ヒ素の汚染は局所的に表層から地下7メートルまで連続しているので操業由来もあります」と指摘した。
また、豊洲の汚染問題を追及し
ている一級建築士の水谷和子さんは、「都は、操業由来の汚染は全部除去するので操業由来の汚染は区域指定を解除すると議会答弁をしています。今になって2年間モニタリングに法的意味はないと言うのは汚染の除去は目指していないと宣言したも同然で、都民との約束の重大な違反です」と批判した。
【クロスチェックが必要】
8月31日、都の新市場整備部は、豊洲市場施設内の空気のベンゼンなどの臨時の測定結果を発表した。今回は、最高0・0013mg/立方メートル(環境基準0・003mg/立方メートルの4割)で、前回6月発表の最高0・0019mg/立方メートル(同6割)を下回った。
前出の畑氏は、「都の測定が信頼できるのか疑問です。私が調査を続けているイタイイタイ病では加害企業と被害者団体がデータのクロスチェックをやっているが、豊洲でも第三者のクロスチェックを認めるべきです」と提言した。
都は、「環境基準とは70年間毎日15立方メートルの空気を吸い続けても健康に影響がない基準」と説明する。
だが、有害化学物質対策に詳しい田坂興亜・元国際基督教大学教授は、「環境基準とは、有害物質の毒性について絶対超えてはダメという基準で、下回っているから安全とは言えません。環境基準の4割、6割とはとんでもない値です。百歩譲ってどうしても豊洲に市場を開設するなら、有害物質濃度はゼロが望ましいわけですから、恒常的に環境基準のせいぜい1%以下にすべきです。その努力をしないで『健康に影響がない』などというのは詭弁です」と批判した。
「汚染区域」は解除できず、環境基準からも疑問符がつく。小池知事は豊洲では「安全宣言」を出せない。
(永尾俊彦・ルポライター、9月9日号)