衆院補選は、東京も福岡も「小池劇場」の再現か――際立つ二階氏と菅氏の老獪さ
2016年10月25日10:39AM
衆議院補欠選挙が10月23日投開票され、東京10区は自民公認の前職、若狭勝氏(59歳)=公明推薦=、福岡6区は無所属新顔の鳩山二郎氏(37歳)がそれぞれ当選した。自民は鳩山氏を追加公認し、事実上2勝となった。その背景を探った記事(10月14日号)を配信する。
グリップを握ったのは、自民党の二階俊博幹事長と菅義偉官房長官だ。
東京10区は東京都知事選に立候補した小池百合子知事の後任を決める選挙で、自民党は元検事の若狭勝衆院議員(比例東京)を後任候補とした。
若狭氏は都知事選で党の決定に反して小池氏の応援に立ったことで二階氏から厳重注意処分を受けていた。一時は党内で「除名だ」という声まであがっていたことに鑑みると軽微な処分に終わったと言える。背景には保守党時代に行動をともにした二階氏と小池氏のあつい信頼関係があっただけでなく、衆院補選を見据えた「抜群の政局観」(政治部記者)がなしたと見る向きが強い。
対する野党は、民進党新人の鈴木庸介氏を共産、社民、生活の4党が支える。参院選で実現した野党共闘の形を維持することは叶ったものの、情勢は若狭氏に水をあけられている。鈴木氏の応援に入る都内の民進党地方議員は「東京では野党共闘の実績がほとんどなく、どうしてもぎこちなくなる。悔しいのは、都知事選でたたかった小池氏と自民党ががっちり連携できていることだ」と嘆き節をこぼした。
都知事選後、自民党内に残った小池氏や若狭氏への不満を「撃ち方やめ」と制した二階氏の老獪さはこのあたりにあろうか。
【安倍超長期政権を見据える】
「二郎氏の闘いは厳しい。だって公認を取れなかった。他人事ではありません」「(東京都知事選と)だいたい図式は似たようなもの」。
10月10日、福岡でマイクを握ったのは一躍時の人となった小池百合子都知事その人。6月に死去した鳩山邦夫前衆議院議員の弔い合戦となる福岡6区で、邦夫氏の息子・鳩山二郎氏の応援演説に立ったのだ。
二郎氏の事務所が小池氏に応援を要請したのは、情勢が苦しいからではない。福岡で「小池方式」を印象づけるためである。
同区について小誌は9月2日号で、蔵内勇夫・自民党福岡県連会長が自身の息子である蔵内謙氏を強引に公認候補者にしようとした無理筋ぶりを書いた。そこに麻生太郎副総理兼財務相ものっかっている事実も指摘した。補選では二郎氏、謙氏ともに自民党は公認しないことが決まった。二階氏がバランスをとったのだ。
二郎氏陣営の戦略は、会長の息子を押し込もうとする福岡県連の横暴ぶりを東京都連の姿とダブらせることにある。都連の“ドン”たる内田茂氏と、福岡県連の“ドン”蔵内勇夫氏のイメージを重ね、メディアにその構図を煽らせるのだ。自民党地方組織の旧態依然ぶりに清新な候補者が斬り込むという「小池方式」である。
他方、 内心ほくそえんでいるのが菅義偉官房長官だろう。菅氏は、邦夫氏死去後の今年7月28日、邦夫氏が結成した派閥横断型グループ「きさらぎ会」の顧問に就任。行政府の側にいるため表だった動きはしないものの、福岡6区で二郎氏を応援していることは周知の事実。自民党関係者によれば、国会議員会館の菅事務所内には二郎氏のポスターが堂々と貼ってあるという。
菅氏が二郎氏を応援することは、安倍政権内でともに中枢にいる麻生氏に公然と弓を引くことを意味するが、そのことについて最近、周囲に不敵な笑みを浮かべながらこう言ったという。
「また週刊誌に『菅vs.麻生』なんて書かれてしまうんだなあ。ハッハッハ」
メディアに「菅vs.麻生」と書かれることをどうとも思っていない菅氏は、麻生氏を邪険にしている節すらある。
見おとせないのは120人規模を誇る「きさらぎ会」が安倍政権を徹底的に支えるかまえを見せていることだ。党内基盤が弱い菅氏にとって、安倍政権が続けばその分だけ自身の立場も安泰となる。 菅氏が二郎氏を応援するのは、言うまでもなく、自民党安倍総裁の「3期目」を実現し、安倍超長期政権を見据えているからだ。
(野中大樹・編集部、10月14日号)