劣悪な労働環境による郵便局員の自死事件――日本郵便が謝罪し和解
2016年11月2日10:42AM
郵便局での夫の自死は劣悪な労働環境にあるとして、妻が日本郵便を相手取り2013年12月に起こした民事訴訟は、10月12日、日本郵便からの謝罪を引き出す和解をして終了した。
日本郵便の男性職員Aさんは06年に埼玉県の巨大郵便局「さいたま新都心郵便局」に異動するまで、地方の局で20年間ゆったりと働き、休日の家族サービスも欠かさなかった。だが同局に異動後、定時には終わらない広範囲の配達を任され、誤配などのミスで300人の職員の前で仲間が反省を強制されるパワハラに萎縮し、年賀状のノルマ押し付けに苦しむ。そんな労働環境に3度の抑うつ状態を発症し、そのたびに休職した。
10年12月1日にも、精神科医は疲弊していたAさんに休職を勧めたが、繁忙期のためAさんは出勤を選び、8日、同局の4階から飛び降り自死した。
提訴後、同郵便局は全面的に争う姿勢を見せる。だが、証言台に立った元上司たちは、「労務管理は適正だった」と主張するも、「ならば、Aさんのメンタル疾患を当然知っていたはずで、なぜ広範囲の配達をさせたのか?」との質問に答えられず、Aさんの異動願いも見ていなかった証言も引き出され、労務管理の杜撰さが示された。
裁判所は、これら答弁を重く見て今年3月に和解を勧告。そして今回、「被告は、亡Aが同局に転入後に抑うつ状態を罹患したこと、異動願いが叶わなかったこと、自死に至ったことに遺憾の意を表する」との日本郵便からの謝罪、および和解金の支払いを盛り込んだ和解が成立したのだ。
妻のBさんは「中学生の子ども3人に『お父さんは悪くない』と報告できます」と安堵の顔を見せた。だが、Aさんの自死は未だに労働基準監督署が労災認定していない。今後は、労災認定を得ることで、日本郵便の労働環境を少しでも是正する闘いが残されている。
(樫田秀樹・ジャーナリスト、10月21日号)