「冗談」発言以上に問題の山本農水相のもう一つの発言――委員会審議の意趣返しか
2016年11月21日12:08PM
「野党共闘に消極的」「国会対策も弱気」と不評だった民進党蓮舫執行部が、安倍政権と闘う姿勢を見せ始めた。きっかけは11月1日夜の山本有二農林水産大臣発言だ。
同日に山井和則国対委員長は「2日のTPP特別委員会での採決、4日の本会議での採決」で与野党合意をしたが、篠原孝筆頭理事ら現場の委員が「審議は尽くされていない」「委員を辞める」と猛反発。そこに山本大臣の問題発言が飛び出し、状況は一変。翌5日、国対と現場が共に「採決できる環境にない。山本大臣辞任が先決」と与党に迫った結果、2日の委員会採決は見送られたのだ。
しかし、安倍政権は山本大臣辞任を拒否する一方、三笠宮崇仁さまの本葬が午前中に行なわれた4日午後の特別委員会で強行採決。「喪に服するべき日に国会を混乱させた安倍首相は保守なのか」といった疑問も出る中、蓮舫民進党代表は「農水大臣発言は利益誘導」「不信任案提出も視野に入れている」と徹底攻勢を示し始めたのだ。
山本大臣の問題発言が出たのは自民党の田所嘉徳衆院議員(茨城1区)のパーティ会場。「JA(農協)の方々が大勢いらっしゃるみたいでございますので、明日、田所先生のご紹介で農水省に来ていただければ、何か良いことがあるかもしれません」と口利きを勧めたのだが、同じ選挙区で戦った民進党衆院議員こそ、TPP特別委員会でSBS米価格偽装問題など政府追及の先頭に立った福島のぶゆき衆院議員(比例北関東)。同僚の宮崎岳志衆院議員はこう話す。
「山本大臣を追及した福島議員は農協などの農業関係者も支持している。だから恨みを晴らしてやろうということなのか、田所衆院議員が負けないようにしてやろうということなのか、『農水省に来てくれれば、(大臣の)オレが便宜を図ってやるぞ』という内容のことを言った。TPP特別委員会審議での意趣返しなのです。しかも山本大臣はSBS米の調査対象業者から資金提供を受け、国と公取と談合関与の疑いで係争中の業者からも献金を受けていた」
自民党国会議員のパーティ券を買って役所に頼めば、TPP対策をしてくれるという露骨な利益誘導だが、献金や選挙応援の見返りに関連予算増などの恩返しをするのは自民党の伝統的手法だ。実際、新潟県知事選で現地入りした二階俊博幹事長も、農業関係者の会合で土地改良事業費(農業土木予算)増加を口にしながら自公推薦候補への支援を訴えた。
しかし、野党推薦の米山隆一知事に敗北。選対本部長の森ゆうこ参院議員は10月31日のTPP反対集会で「最大の争点は原発再稼働だったが、もう一つはTPPだった」と挨拶。先の福島氏はこう話す。「熊本の農協関係者が上京、夜から議員会館前で座り込みをしていた。『自民党国会議員に文句を言われるので』と言っていましたが、参院選の東北の乱が九州などに広がろうとしています。次期衆院選で原発とTPPを訴えることが大切。野党共闘をすれば、地方の自民党は壊滅する」。
【食の安全徹底追及の構え】
一方、都市部も食の問題を野党が本格的に取り上げ始めてから反応、メデイア的にも盛り上がってきた。食の安全を脅かす安倍首相の発言を徹底追及しようとしているのが玉木雄一郎衆院議員だ。
「発がん性の疑いのある肥育ホルモンや飼料添加物は、日本国内では使用禁止なのに輸入は認める二重基準。TPP発効で食肉輸入が増えてリスクが増大するのに、表示を義務付けるなど日本独自に規制することが困難になる規定がTPPに入っていた。『食の安全に関する協議をすべて秘密にする』という内容の秘密協定になっていたのです。それなのに安倍首相は根拠なしに『安全でないものが食卓に届くことは絶対にない』と断言した。米国で認可された遺伝子組み換えサケが入ってくる恐れもある。TPPは単なる自由貿易のルールではなく国家の役割を縮小させるのです」
農業や食の安全を脅かすTPP。強行すれば、安倍政権打倒の気運が高まるのは確実だ。
(横田一・ジャーナリスト、11月11日号)