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TOKYO MXが沖縄基地問題のデマを放送し波紋──保守系メディアの〝常連〟、取材なしで一方的な主張展開(『週刊金曜日』取材班)
2017年2月5日9:15PM
東京の地域テレビ局地上波が年始の番組で、沖縄の米軍基地に抗議する人々についてのデマや差別的な言説を放送した件で、放送倫理・番組向上機構(BPO)は2月3日、人権侵害の申し立てをした市民団体「のりこえネット」共同代表の辛淑玉(シンスゴ)さんに、「まずは当事者同士で話し合ってほしい」と連絡した。辛さんは週明けにも東京MX側に話し合いを求める予定。番組のどこが問題なのか、あらためて報告する。
問題となっているのは、「東京メトロポリタンテレビジョン」(TOKYO MX)が1月2日に放送した「ニュース女子」という番組だ。「緊急調査!! マスコミが報道しない真実 沖縄・高江ヘリパッド問題の〝いま〟」とのセンセーショナルなタイトルを掲げ、番組冒頭から約20分にわたり、沖縄についての放送がされた。
番組は、沖縄の米軍普天間飛行場前で抗議する人々が「月曜から出勤」していて「週休2日」で、現在は高江のヘリコプター着陸帯(ヘリパッド)の建設地に「集中投入」されているようだとの主張を展開した。さらに、東京で配られていた「往復の飛行機代相当、5万円を支援します」とあるチラシを公開し、過去に普天間飛行場前で見つけたという「光広 2万」と手書きされた茶封筒も紹介。基地に抗議する人々には日当が配られているかのように報道した。
抗議する人々はお金で動員された活動家だ、という言説は、これまでにも保守系メディアで繰り返し主張されてきたことである。最近では、保守系のネットメディア「日本文化チャンネル桜」(以下、チャンネル桜)や日刊紙『夕刊フジ』などが断続的に報じてきた。沖縄の報道関係者はこう話す。
「何万円もの日当を払う資金力を備えた労働組合はありません。一部メディアは中国が資金援助しているのではないか、との憶測もばらまいています。日本にそのような外貨流入があればすぐ発覚してしまうでしょう。大学の研究者やジャーナリストなどで構成された沖縄米軍基地問題検証プロジェクトが16年に発行した『それってどうなの? 沖縄の基地の話。』という小冊子では、こうしたデマも明確に否定されています。それなのに、テレビ局が二番煎じの虚報に走るのは不可解でならない」
“オール保守系”の出演者
放送法には〈報道は事実をまげないですること〉〈意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること〉(4条)などとの規定がある。TOKYO MXも同趣旨の放送番組基準を掲げている。
沖縄の基地問題は、「意見が対立している問題」であり、多角的な観点を提供する公平、公正な報道が求められるのは間違いない。しかし「ニュース女子」はどうか。
出演者はチャンネル桜など保守メディアの“常連”が多く、ニュースにコメントを寄せる「女子」の面々も「おじさま」論客の主張に同調するだけ。1月2日放送回では沖縄現地取材者として、井上和彦氏が登場した。井上氏は「軍事ジャーナリスト(漫談家)」と称し、多数テレビ番組に出演している。「漫談家」として冗談交じりに話すこともあるが、実は別の“顔”もある。軍事装備ビジネスなどを展開する商社、双日エアロスペース㈱の正社員なのだ(本誌2015年12月4日号で詳報)。同社は戦闘機、ヘリコプターをはじめさまざまな〝武器〟を輸入・販売している。これを踏まえると、井上氏の姿は違って見えないか。
番組に「地元の人」として登場したのは、手登根安則(てどこんやすのり)氏だ。手登根氏はチャンネル桜の沖縄支局キャスターなどを務める一方、16年7月の参院選では日本のこころを大切にする党公認で立候補し、政界進出も目指していた。このときは落選に終わったが現在も同党国政支部長の肩書で活動中だ。
番組で「光広 2万」と書かれた茶封筒を紹介したのも手登根氏。だが同氏は、茶封筒が“発見”された日時や位置などは明らかにせず、画面からフェードアウトした。手登根氏は1月3日、自身のフェイスブックで〈沖縄のヘイワ運動の中には金貰っている奴らがいるということが暴露されました〉などと番組を紹介した。
ほかにも「地元の人」として登場したのは、我那覇真子(がなはまさこ)氏だ。我那覇氏もチャンネル桜のキャスターであり、地元内外で活動する「琉球新報、沖縄タイムスを正す県民・国民の会」(15年4月結成)の運営代表委員だ。16年7月には自衛隊・沖縄地方協力本部の委嘱を受け、名護市での自衛官募集相談員にも就いた。我那覇氏は15年9月22日、スイス・ジュネーブの国連人権理事会に出席。翁長雄志沖縄県知事が行なった「人権侵害」演説を否定する発言を繰り広げた。同行した沖縄県石垣市の砥板芳行市議は旅費について、「彼女の政治活動を支援する方々から出た」と本誌に語り、砥板氏には「航空券が送られてきた」とした。
デマとヘイトに抗議声明
同番組では「韓国人がなぜ基地反対をするのか」として、反レイシズムの市民団体「のりこえねっと」の共同代表の1人である辛淑玉氏もやり玉に挙げられた。実は、「5万円を支援します」とのチラシを作ったのが「のりこえねっと」なのだが、これは「日当5万円」を意味するものではない。辛氏はこう説明する。
「まず、私も『のりこえねっと』も、この番組からは一度として取材を受けていません。取材もせずに公共の電波でデマを語ったのです。番組で取り上げられたチラシは、沖縄現地の状況をネットで発信するために特派員を募集し、その交通費として5万円を支援するとの内容で、日当とはまったく別物。カンパ金を捻出してやっと十数人派遣した程度のものです」
「のりこえねっと」は1月5日、「ニュース女子」は虚偽の報道と辛氏に対する誹謗中傷をしたとして、抗議声明を発表した。今後、あらゆる抗議をしていく構えだ。
この事態について、TOKYO MXの関係者は、「そもそも、問題の番組はDHCの持ち込み番組で、局が作ったものではないんです」と漏らした。さらに、「最近は、局で作っている番組でも、放送するハードルが低くなっているのは事実。ただ今回の件については個別の事実関係に間違いがあれば、局として訂正をするなり対応があると思います」と話した。
同番組はCSチャンネル「DHCシアター」と(株)ボーイズが共同制作し、放送している。前者は化粧品・健康食品大手DHCのグループ会社だ。「DHCシアター」は10~11年には野党時代の安倍首相が出演する番組も手がけた。当のDHCも、会長の吉田嘉明(よしだよしあき)氏が14年にみんなの党の渡辺喜美氏に8億円貸与したことを『週刊新潮』(新潮社)で暴露して波紋を呼んだ。吉田会長はまた、スラップ訴訟(恫喝訴訟)を提起することでも“有名”だ。訴訟を起こされたあるジャーナリストは、「吉田会長は、気に入らない記事に難癖つけて訴え、相手を黙らせてきました。『週刊文春』も過去に訴訟を起こされて550万円の賠償で確定している」と話す。
今回の番組放映には、現政権にすり寄りたいDHCの思惑があるのだろうか。TOKYO MXの放送倫理が問われることは間違いない。しかし同局は1月9日放送の「ニュース女子」でも、抗議声明を揶揄するなど居直り続けている。
(1月13日号、リードは新しくしました)
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