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アパホテル、南京虐殺否定本の撤去は拒否(岩本太郎)

2017年2月6日7:46PM

南京大虐殺を否定する書籍が客室内に置かれていることを指摘する動画がインターネットで流れ、国内外から批判を浴びるアパホテル。一企業の信用問題ですむはずもなく……。

ホテルチェーンのアパホテル(本社・東京)に宿泊した米国人と中国人の大学生2人が、東京都内の同ホテルに宿泊した際の経験から「このホテルのCEOが執筆した、南京事件を否定する内容を含む内容の本が全客室に置かれている」と報じる動画を「KatAndSid」のハンドルネームで中国のSNS「微博」に投稿したのは1月15日の夕刻のことだった。

英語と中国語でレポートされたこの動画は猛烈な勢いで広まっていった。微博をチェックしていたユーザーによると、動画の再生数は翌1月16日の昼過ぎには2000万回を突破したという。同日午後には中国共産党機関紙『人民日報』の国際版『環球時報(the Global Times)』もこの問題を取り上げた。

日本のネット媒体の「IT mediaニュース」によると《動画は17日午前11時半までに6800万再生を超えた。「いいね」は32万以上、コメントは2万9000以上投稿されており、「客観的なリポートをありがとう」「このホテルには泊まらない」などの声が寄せられている》という凄絶な規模にまで拡散された。

アパグループといえば、代表の元谷外志雄氏が安倍晋三首相の後援会の副会長を務めたり、公益財団法人アパ日本再興財団主催の懸賞論文に田母神俊雄氏が受賞して航空幕僚長更迭のきっかけになったことでも有名。また、妻であるアパホテル社長の元谷芙美子氏の独特なキャラクターもネット、あるいはCMなどマスメディアでもおなじみだ。

そうした意味では、同ホテルの客室に置かれた外志雄氏の著作が外国人宿泊客の目に触れたことをきっかけに起こった今回の問題を「起こるべくしてついに起きたか」と受け止めた日本のネットユーザーも多かったのではなかろうか。 アパグループ側は今後も同書を客室に置き続ける旨の見解を公式サイトで発表したが、同ホテルを応援する書き込みがネット上に溢れている今の風潮からすれば、むしろアパグループの対応は予想通りの展開といった感すら受ける。

     海外メディアも大々的に

とはいえ、そこはあくまでも日本国内における話である。海外では先の『環球時報』のような中国語のメディアに限らず、BBCなど欧米発の国際ニュースネットワークも、この問題については当初から連日大々的に報道している。

たとえば英国に拠点を置く『ザ・ガーディアン(the Guardian)』は1月18日の記事「Japan hotel chain angers China over book’s denial of Nanjing massacre(日本のホテルチェーンが南京虐殺否定本で中国を怒らせる)」の中で、昨年10月に国連の教育科学文化機関(ユネスコ)が南京事件に関する資料を世界記憶遺産に登録した際、日本がユネスコへの拠出金(3400万ポンド以上)の支出を留保した(ユネスコが審査過程見直しを発表した後の12月になって一転支払いを了承)件も併せて報じている。

すなわち海外ではこの問題をきっかけに「やはり日本は過去の戦争責任を認めない国なのだ」といった見方を強めかねない報道が出ているのだ。

一方、来月に札幌で開幕する冬季アジア大会の組織委員会が、選手団の宿泊先となっているアパホテルに対し、当該本の撤去などの対応を打診するという具体的な影響もすでに出てきている。しかし、ネット上で「アパホテル、がんばれ」と意気盛んな一部のネットユーザーたちにはそれが日本の国際的立場を悪くすることへの想像力が働かないらしい。

ネットの普及により情報が国境を超え瞬時に世界に広まるようになった反面、こうした日本の内と外とでの意識の乖離には何とも歯がゆさを禁じえない。
(いわもと たろう・ライター。1月27日号)

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