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小田原市はジャンパー問題の本質を理解しているのか――「保護なめんな」の行政問う

2017年2月13日10:52AM

小田原市役所内で市職員に公開質問状を手渡す稲葉剛氏。右端が筆者。(提供/雨宮処凛)

小田原市役所内で市職員に公開質問状を手渡す稲葉剛氏。右端が筆者。(提供/雨宮処凛)

「経緯等々、報道されている通りですが、職員の思いはなんであれ、経緯はどうあれ決してやってはいけないことであったことは十分痛感しています。もう本当に、反省の極みでございます」

神奈川県小田原市の福祉健康部長・日比谷正人氏は開口一番そう言った。

小田原市の生活保護担当職員が「保護なめんな」ジャンパーを着ていた問題が発覚してから1週間後の1月24日午前10時半。この日、弁護士や支援者からなる「生活保護問題対策全国会議」は原因究明、検証委員会の設置などを要望する公開質問状を持参、面談した。

全国会議からは立教大学特任准教授の稲葉剛氏やNPO法人「POSSE」、そして私など7人、市側からは6人が参加した。

10年前、小田原で生活保護を停止された男性が職員を切りつけるという事件がきっかけで、「連帯感を高めるため」に作られたジャンパー。「不正受給はクズ」「保護なめんな」などと書かれたジャンパーは10年間にわたって着用され、これまで64人が購入したという。

全国会議のメンバーからは、小田原の生活保護行政、または人権意識についてさまざまな指摘がなされた。件数で2%、額にして0・5%の不正受給を市がクローズアップして生活保護利用者を敵視、威嚇するようなジャンパーの問題点。それを着て保護世帯を訪問することが、どれほど受給者を傷つけ、「秘密保持」に反することか。

また、市のホームページに記載された「生活保護制度について」の記述が、「オンライン上の水際作戦」を思わせるものだったこと。一方、匿名で取材に答えている職員の発言などを見ると、生活保護の基本がわかっていないのでは、と思わざるを得ないこと。そもそも、このような事態が起きる背景には、生活保護利用者を「下に見る」ような差別意識があったのでは、ということなども指摘された。

市側は一貫して「差別意識はなかった」と繰り返した。が、「問題の本質が伝わっているのか」と疑問に思う場面もあった。全国会議のメンバーが、「生活保護利用者を職員間で呼び捨てにしていないか」という質問をした時のこと。「あまりそんな大きな声でやりとりするってことはないので、他の人には聞こえない」

真顔で答えたのだが、問題は「他の人に聞こえるかどうか」ではなく、利用者を職員間で呼び捨てにしていないかどうかである。

面談では、当時の保護係長が音頭をとってジャンパーが作られたことも明らかになった。みんなで意見を出し合ってデザインし、市内の洋品店に発注されたという。また、この日参加した管理職の面々は、そのジャンパーを当然、見ていた。が、「デザインとしてしか認識していなかった」という。

【全国どこでも起き得る】

このような残念な事件の背景には、職員のオーバーワークもあるだろう。実際、小田原市でも4人の職員が欠員、人手不足の状態だったそうだ。また、組織的な問題も垣間見えた。激務ゆえ「不人気」な現場に新人が回され、「生活保護とは」「福祉とは」という徹底した研修などないまま実務につき、先輩から仕事を学ぶ。が、このようなやり方では「悪い慣習」が受け継がれてしまうこともある。

全国で起きている水際作戦の背景には、生活保護法や厚生労働省の通知などより、「慣習」が優先されてしまっている実態があるのだ。

「今回のことを受けて、各地の自治体職員から『うちの現場で起きてもおかしくない』『自分が小田原の職員だったらジャンパーを拒否できただろうか』という率直な意見も届いています。小田原だけの話ではない。全国どこで起きてもおかしくないことです」

面談に参加した全国会議のメンバーで、生活保護を担当する都内自治体の職員は言った。

この日、小田原市からは検証委員会の設置と研修制度の見直しなどについて前向きな発言があった。2月末には公開質問状への返事も届く。ジャンパー問題をきっかけに、小田原の生活保護行政が改善されることを祈っている。

(雨宮処凛・作家、2月3日号)

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