日本政府・社会の異様しめす山城博治さんの長期勾留(黒島美奈子)
2017年2月16日4:57PM
1月16日朝、山田親幸さん(83歳)から予期せぬ電話があった。「正午に那覇地裁前に行くから君も来ないか」と言う。名護市辺野古や東村高江での新基地建設・ヘリパッド建設への抗議活動を巡り逮捕された沖縄平和運動センター議長・山城博治さんが勾留されて3カ月を迎える。異議を示すため、何人かが声を掛け合い、裁判所前に集まるという。
沖縄県視覚障害者福祉協会会長の山田さんは、先天性の強度弱視で高校卒業ごろに視力を失った。県立盲学校の教師を務め、沖縄がまだ米軍統治下だった1960年代、沖縄県高等学校障害児学校教職員組合(高教組)の創立(67年7月)にかかわった。同じく創立メンバーの1人、元参院議員の山内徳信さん(81歳)からの連絡で、裁判所前に駆け付けたのだった。
山城さんは、山内さんの出身校の後輩だ。「勾留はあまりに理不尽。かつての同級生たちと何かできないか話した」という。それが釈放を求める署名活動だった。新年と同時に始まった署名はあっという間に広がり、この時点で約3万人分が寄せられた。
山城さんは昨年10月17日、米軍北部訓練場の侵入防止のために沖縄防衛局が設置した有刺鉄線をペンチのようなもので切断したとして、器物損壊の疑いで現行犯逮捕された。その後、昨年8月の防衛局職員への傷害・公務執行妨害容疑、昨年1月の防衛局に対する威力業務妨害容疑が付け加えられた。
「被害者」はいずれも国または国の職員であり、どれも抗議活動の中で「発生した」とされる。三つの容疑の中で一般に重いのは傷害容疑だが、防衛局も県警も連日のように抗議活動を録画しているにもかかわらず、逮捕は発生から2カ月後だった。3番目に容疑に加えられた威力業務妨害は、発生から1年近く経過している。
現行犯は器物損壊だけという状況で、勾留が長引くにつれ、山城さんの逮捕は「政治的な意図によるものではないか」との不審が県民の間に広がっている。
「こんな内容の容疑による長期勾留は米軍統治下でも記憶にない。日本の人権問題や表現の自由は今、あの時代の沖縄より悪い」
裁判所前で山田さんと山内さんが声をそろえた。
復帰運動の盛り上がりと並行して立ち上がった高教組は、社会の問題に敏感に反応した。2人は米軍の圧政への抗議活動の最中、琉球警察や米軍との衝突を何度も経験したという。その2人をして「今の警察や司法より、米軍の方が物わかりが良かった」と言わしめる。黒人奴隷の解放の歴史やリンカーン大統領の名前を持ち出すと、米兵たちは「わかった」というように抗議活動への手を緩めたという。山内さんは「民主主義が何たるものか、米兵たちには実感があったんじゃないか」と振り返る。
米紙『ワシントン・ポスト』電子版は山城さんの長期勾留を「県民に沈黙を強いる異常事態」と報じた。国際人権団体アムネスティ・インターナショナル日本は、釈放を求める緊急行動を始めた。2人をはじめこの日裁判所に集まった100人近くが感じる異様さは、世界の感覚と通じるのだ。
それに対し気になるのが日本社会の沈黙だ。「政治はよく間違える。でも一番怖いのは、それをただす力がないこと」。2人の言葉が胸にささった。
(くろしま みなこ・『沖縄タイムス』記者、2月3日号)