【タグ】東京五輪、アベノミクス
被災地復興を遅らす東京五輪とアベノミクス 小池百合子都知事の“復興五輪”の胡散臭さ
2017年3月13日1:37PM
小池百合子東京都知事が、東京五輪のフラッグツアーイベントで福島・宮城・岩手の被災3県を訪問、“復興五輪”をアピールした。
五輪開催旗(フラッグ)が被災地を含む各地を回ることで2020年に向けた機運を盛り上げるのが目的で、昨年11月2日の福島訪問を皮切りに2月9日には宮城、17日には岩手を訪れ、各県知事とも面談をしたのだ。
視察の狙いについて小池知事は「東京五輪は『復興五輪』でスタートしたことを言い続けるし、それに適うような中身になるように努力したい」「(震災復興は)オールジャパンで取り組む課題」と熱く語ったが、被災地の深刻な問題への関心は今一つだった。
9日、宮城県庁でのイベントを終えた小池知事の囲み取材で、「五輪関連事業が増えて、入札不調(工事費高騰)が深刻化しているという話を聞いたが、被災地の悲鳴は届いているのか。公共事業削減に取り組む考えはあるのか」と質問したが、小池知事からは評論家のような答えしか返ってこなかったのだ。
「さまざまなご意見として受け止めさせていただきます」
【工事費高騰で入札不調顕著】
被災地では巨大防潮堤などの大型復興事業が集中、人手・資材不足による工事費高騰や入札不調が深刻化、これに東京五輪関連事業やアベノミクスによる全国的な公共事業バラマキが拍車をかけている。震災から6年が経とうとしているのに、いまだに復興道半ばの要因の一つになっているのだ。
数字にも表れている。宮城県庁で入手した「公共工事設計労務単価変動グラフ」を見ると、建設業界の人件費は1・5倍から2倍程度に上昇。震災直後の11年は普通作業員の労務単価が1万1100円だったが、5年後の16年には1万7500円と1・5倍以上に増加、事業費増大を招いていた。たとえば、地元住民が見直しを求めた気仙沼市小泉地区の巨大防潮堤計画(高さ14・7メートル)の事業費は当初の230億円から約6割増の370億円に膨れ上がった。
入札不調の発生率も震災前は3・2%だったが、震災直後の11年度は22・6%に急増。14年度21・1%、15年度19・4%とほぼ横ばい状態にある。「東京五輪関連事業や熊本復興事業など他地域での公共事業が増えて、全国的に公共事業が多い需給関係が続き、被災地での入札不調が解消しないということでしょう」(宮城県契約課)。
民間の建築工事にも悪影響を及ぼしている。17日の岩手訪問で小池知事に説明をした戸羽太陸前高田市長は囲み取材でこう話した。
「小池知事が築地移転問題で『(豊洲新市場の建物が)高級ホテル並の平米単価』と言っていたが、被災地で市役所を建てる場合も高級ホテル並の平米単価になっており、国の災害復旧の平米単価の1・5倍を超えています。家を建てる場合も『1・4倍ぐらいになっている』と業者が言っていました」
「赤浜地区の復興を考える会」の川口博美会長(岩手県大槌町)もこう話す。「仮設住宅を出て新しい住宅を建てようとしたら、当初の見積もりの5割増になって新居建設を断念した人もいます。坪単価が70万円もするのです」。
仮設食堂を経営していた大槌町のIさんも新店舗の坪単価が2倍になり、開店を断念した。「都知事に被災地の苦境を直訴したい」という声が出るのはこのためだ。
17日に小池知事と面談した達増拓也岩手県知事も、「復興の資材や人手については、全国的調整は政府にやっていただきたい」と取り組みの必要性を囲み取材で訴えた。ただ先の戸羽氏に「小池知事が安倍首相に『復興五輪なので、被災地以外の公共事業を抑えましょう』と全国的な公共事業抑制を働きかけるといいのでは」と聞くと、「『被災地のために公共事業を抑えよう』というのは恰好がいい話だが、他地域の知事は『わが町一番』なので納得しないだろう」と答えた。
復興五輪を掲げる小池知事が、全国的な公共事業抑制の旗振り役となり、公共事業推進のアベ土建政治と対峙するのかが注目される。
(横田一・ジャーナリスト、3月3日号)
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