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南阿蘇村の地獄3兄弟(小室等)

2017年3月25日2:53PM

「地獄三兄弟」に会ってきた。

熊本県南阿蘇村河陽の老舗旅館〈地獄温泉 清風荘〉。地元民にとって地獄と言えば、あの地獄ではなく、清風荘のことで、「熊本県地獄」で郵便物は届くそうだ。「地獄三兄弟」とは、その〈清風荘〉を営む社長の河津誠さん(五四歳、長男)、副社長の謙二さん(五三歳、二男)、専務の進さん(五一歳、三男)たち三人、正しくは「地獄温泉の三兄弟」です。

二〇一六年四月一六日、南阿蘇村、震度七の地震。江戸時代から二〇〇年以上の歴史を誇る地獄温泉も、本震で、施設の壁にひびが入るなど大きな被害を受け、村道が土砂崩れでふさがり、宿泊客、従業員計五一人が一時孤立するが、自衛隊ヘリで救出される。

地震から一〇日後、三兄弟はそれぞれ示し合わせたわけでもなく徒歩で山をかき分け宿に向かう。泉源と水の無事を確認、敷地内は地割れができ、明治時代に建てられた本館に歪みはあれど、風呂施設も無事。再開のめどは立つ。希望を胸に、調理の腕を生かして炊き出しなど、村民のためのボランティア活動に邁進するが……。

六月二〇日、熊本に豪雨。降り続く大雨で地獄温泉にも大規模な土石流。本館も、もっとも古い「元湯」も飲み込み、被害は全体の三分の二に及ぶ。気持ちが折れかかる。村全体としても、交通流通の要所、阿蘇大橋が崩落。地元民は不自然な崩れ方だと言う。「ぐるっとどんだけ見回しても、あのサイズの崩落はあそこしかない。もっと細く小さくしか崩れないんですね、山は」と誠さんも言う。四月一四日の前震で大橋が架かる地盤は緩んでいたはず。

五月になって、〈地震発生後、南阿蘇村にある九州電力水力発電所の水路から、阿蘇大橋の方向へ二〇万トンもの大量の水が流れ出ていた〉との報道。人的崩落の側面が考えられるのに、追跡されるべきニュースは途絶えていると言う。メディアは弱り切っている。

本当の地獄になってしまった地獄温泉、笑えない。それでも、泉源と水は生き残ってくれた。三兄弟は元気だ。異口同音に言う。村の仲間たちと家族が無事なら、何だってやり直せる。最低でも三年間無収入の覚悟を決めた三兄弟は今、文字通り地獄からの生還に全力を注いでいる。

隣の「垂玉温泉 山口旅館」の山口さんにも会った。メルヘン村のペンション「風の丘・野ばら」の栗原さんにも。南阿蘇村に復興の手が届く順番は後の方だろう。待っていられない。避難所で結束も生まれた。地震から一年、新住民、旧住民一つになって、南阿蘇村の村おこしがはじまっている。

(こむろ ひとし・シンガーソングライター、3月10日号)

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