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豊洲市場のベンゼン問題 「地上」の健康リスク指摘した報告書を都の専門家は“無視”

2017年4月17日11:04AM

豊洲市場の地下空洞。(2月25日、撮影/永尾俊彦)

東京都の築地市場(中央区)の移転先である豊洲市場(江東区)の地下水から、今年1月に環境基準の79倍のベンゼンが検出されたことを受けて再調査をしていた都の専門家会議(座長=平田健正放送大学和歌山学習センター所長)は3月19日、79倍が検出されたのと同じ井戸から100倍のベンゼンが検出されたと発表した。

しかし、平田座長は、「(市場の建物内の)地上と地下は分けて考えるべき。地上の観測値に変化はなく、地上は安全だ」と述べた。

実は、都は今回のベンゼンが環境基準の100倍という結果では地上も安全とは言えない試算をした報告書を、日水コン(東京都、野村喜一社長)というコンサルタント会社にまとめさせていた。だが、同日の専門家会議ではその報告書にはまったく触れなかった。

専門家会議は、ベンゼンなど揮発性ガスの上昇を抑える効果があるとして盛土を対策の柱として提言、2008年に一度解散した。

だが昨年9月、肝心の盛土がないことが発覚、小池百合子都知事が新たな対策を提言してもらうために専門家会議を再招集した。

2008年の提言では、地下水から揮発したベンゼン、シアンなどがガスとしてすき間などから地上の建物内に入り、人の健康や生鮮食料品にどの程度影響を与えるかを試算した。

その結果、市場の地下水が環境基準以下に維持されていれば人の健康に問題はなく、食の安全・安心への悪影響も小さいと結論付けた。ただ、これはあくまでも盛土があることが前提だった。

ところが、都は専門家会議の了解なく盛土をやめ、汚染が判明した場合に掘削除去するために地下を空洞にしていた。

【盛土なしのリスク評価は】

都は、盛土がなくても安全性は担保されるのか気になったらしく、日水コンに地下が空洞になっている場合の安全性の評価を委託、報告書(15年3月、「豊洲新市場事業における地下水管理システムに関する施設等修正設計報告書」)を得ていた。

共産党都議団が昨年入手したその報告書によると、同社は専門家会議が使ったのと同じリスク評価モデルを使って計算し、「土壌汚染対策により地下水水質が環境基準に担保されれば、床下空間が空洞の場合でも発がんリスクは目標発がんリスク(10万人に1人)を下回ることが示された」と結論付けている。そして、「地下水環境基準の約10倍程度までは許容される」とし、目標地下水濃度は0・118㎎/L(ベンゼン)としている。

この結論にあてはめて考えると、今回の100倍という数値は「許容される」濃度のさらに10倍で、到底許容されず、地上も安全とは言えないのではないか。この点を平田座長に問い合わせたが、「専門家会議は、日水コンの数値解析については関知しておりません」との回答だった。

しかし、平田座長は、専門家会議で「都には、ある資料はすべて出しなさいと言っている。隠しているものは何もありません」という趣旨の発言を繰り返している。

都中央卸売市場の安間三千雄課長にこの報告書の存在を専門家会議は知っているのか確認したところ、「専門家会議の事務局をつとめる中島(誠・国際航業フェロー)さんにはこういう資料(報告書)がありますよということをお知らせしてあります」と答えた。

日本環境学会の畑明郎元会長は、「日水コンの報告書の地下水位の設定は海抜2メートルですが、現状は平均約2・5メートルあり、リスクはさらに高くなります。そもそも揮発しない汚染物質なら地上と地下は分けられますが、これまで豊洲市場の地下水から検出されたベンゼン、シアン、水銀は揮発性物質で地上と地下を分けることはできません」と指摘した。

平田座長は「築地の人々に寄り添う」と言う。確かにこれまで5回の専門家会議は毎回7時間前後に及び、平田座長は市場の人々の質問に長時間、丁寧に答えていた。

しかし、重要な報告書の存在に言及しないのでは、真に寄り添うことにはならないのではないだろうか。

(永尾俊彦・ルポライター、4月7日号)

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