私、井上順一（仮名）は57歳で、禁煙歴10年。７年前から東京都内でタクシー会社に勤め、運転手をしていました。
２０１４年夏ごろからタバコの煙が苦手になり、そのニオイがとても気になるようになったので、日本禁煙学会の認定医を受診し、「受動喫煙症」と診断されました（注１）。
タクシーは禁煙ですが、同僚には喫煙者がいるので、勤務先の仮眠室を禁煙にしてもらうなどして、大過なく勤務していました。
ところが昨年春ごろから、勤務中にときどき、のどが痛くなるようになりました。焼けるような痛さで、ひどいときは意識さえ失いそうになります。血液検査やＣＴ検査を受けましたが、異常はないとのこと。
振り返ってみると、車内に焦げ臭いような、屁のようなニオイが漂うことがありました。それで、新型タバコのアイコスが原因ではないかと思い当たり、運転席と後部座席の間に「アイコスも禁止です」と記した大きな禁煙マークを掲げました。
その後は焦げ臭いニオイがすることはなくなったのですが、体調は悪化し続け、のどがかれて声が出なくなり、頭痛・関節痛・下痢なども起きるようになりました。何が原因か、数カ月考えて思い当たったのがプルームテックです。
プルームテックはニオイがしません。しかも用具が手のひらに収まってしまうくらいコンパクトですから、後部座席で吸われても運転席からはわからないのです。
８月末には勤務が難しい状態になり、大学病院を受診したところ「化学物質過敏症（ＣＳ）で、タクシーの勤務は無理」との診断。休職し、健康保険（協会けんぽ）の傷病手当金を受給して生活しています（今年１月15日に退社）。傷病手当の支給は18カ月間ですから、その間に次の仕事を探さなければなりません（注２）。
休職後はマンションの階下に住む高齢者の喫煙に苦しんでいます（ＣＳが重症化したのはこの影響もあったのでしょう）。古いマンションのせいなのか、彼がタバコや新型タバコを吸うと、ニコチンなどの有害物質を含んだ煙や「ベイパー」がトイレの給排気口や排水管のすき間からわが家に上がってきます。
休職直後は紙巻きタバコのニオイでしたが、しばらくしてアイコスのニオイに変わりました。アイコスのニオイは吸った本人が外出したあとも長時間残ります。１日24時間のうちニオイがしないのは数時間だけ、という日もあります。
ニオイがし出すと、のどが張りつくようになり、苦しくてたまりません。部屋の外に避難するしかありません。
管理会社に「階下からタバコの煙が自室に入ってくるので、何とかしてほしい」と相談しても、「階下の住人は吸っていないと言っている。管理会社も所有者も対応しない」という返事です。
階下の住人は３月下旬からプルームテックに替えたように思います。アイコスのニオイはしないのに、苦しくなるのです。ニオイがしないので大量に吸い込んだのか、救急車を呼ぼうか、というほどのことも起きました。
いまはタバコの煙や新型タバコのベイパーがないところでは普通に生活できるので、渡辺文学タバコ問題情報センター代表らの「ハイヤー・タクシーの完全禁煙をめざす会」に協力し、加熱式タバコの危険性を訴えています。
６月にはプルームテックの都内での販売が始まり、ニオイのしない有害物質入りベイパーが大量に漂うことになりそうです。そんな都市には住めそうもないので、単身で三浦半島に引っ越すことにしました。
家族も別のマンションに引っ越します。費用がかかって大変ですが、健康には代えられません。
ニオイがしないので、周りの人にはわからないが、しかしニコチンなどの有害物質はまき散らす。そんな商品が大量に出回れば、乳児・子ども・妊婦、さらには気管支の弱い人やＣＳの人に悪影響を与えるのは間違いありません。
そのように危険なものは世の中に出すべきではなく、少なくとも喫煙所以外では禁止する必要があります。マンションの個室もぜひ禁煙空間にしてほしいと思います。

（注１）受動喫煙症は、受動喫煙による健康被害について日本禁煙学会と禁煙推進医師歯科医師連盟の診断基準委員会が連名で定めた病名。「無症候性急性」のレベル１から「重症」のレベル５まである。
（注２）傷病手当金は、業務外の原因で病気やケガをして会社を休んだとき、被保険者と家族の生活保障のために給付される。労災保険にも休業補償給付の制度はあるが、いつどこで被曝したかを証明するのが難しく、申請できなかった。

構成／岡田幹治

（2017年4月２１日号に掲載）