【「香害」最前線】 タバコ
「タバコ族議員」の抵抗で「受動喫煙防止法案」がピンチ!
岡田幹治|2017年4月21日4:16PM
※このシリーズは問答形式にしています。
――飲食店・職場・住まいなどでタバコの煙や有害物質に苦しめられる「受動喫煙」を防止する法案が検討されています。
健康増進法(2003年施行)でホテルや店に受動喫煙防止の努力義務が定められて以来、国内では施設内に喫煙室を設ける「分煙」が進められてきました。しかし、喫煙室に出入りするとき煙が漏れ出すし、喫煙した人の服や吐く息からニオイや有害物質が漏れてもきます。分煙では健康被害をなくすことはできません。
日本も批准している「タバコ規制枠組み条約」(05年発効)は、公衆の利用する場(公共の場)での屋内全面禁煙を法定するよう定めています(注1)。世界では49カ国とアメリカの30州が屋内全面禁煙を実行しており、世界保健機関(WHO)の評価で日本は「最低レベル」とされています。
また国際オリンピック委員会(IOC)とWHOは「タバコのないオリンピック」で合意しており、20年の東京オリンピック・パラリンピックもそうしなければなりません。
以上のような事情から厚生労働省が健康増進法の改正を検討しているのです。
――どんな内容ですか?
受動喫煙防止を罰則つきの義務にしようというもので、3月に公表された「基本的な考え方の案」は表のようになっています(注2)。
簡単にいうと、①小中高校や医療機関は、もっとも厳しい「敷地内禁煙」、②福祉施設や官公庁は「屋内禁煙」、③飲食店やホテルは「原則建物内禁煙」とし、煙が外に出ない「喫煙専用室」の設置を認めるとともに、(約30平方メートル=㎡以下の)小規模のバー・スナックなどは例外とする――という内容です。
加熱式タバコについては、健康影響の研究成果を踏まえ、法施行までに政省令で対象にするかどうか決めることになっています。
――小規模のバー・スナックなどを例外にするのは許せません。店舗面積で受動喫煙対策に差を設けている国はなく、100㎡で線引きしたスペインでは、公平性と従業員の受動喫煙などを理由に「全店舗禁煙」に修正された、と日本禁煙学会の緊急声明にありました(注3)。
その通りです。ただ、日本の現状を考えると、厚労省の案で始めるのが現実的とする意見も少なくありません。
――厚労省の考える改正案がいまの国会に提出され、成立する見通しですか。
公布から2年以内に施行して、19年9月のラグビーワールドカップに間に合わせるには現国会での成立が必要――というのが厚労省の考えですが、いまだに提出のめどさえ立っていないのです。
――どうしてですか?
与党・自民党内に強硬な反対派が存在し、厚労省の改正案を認めないためです。反対派は「たばこ議員連盟」(会長=野田毅・前党税制調査会長、会員約280人)に結集し、「分煙案」を打ち出しています。
その主な内容は、①小中高校・医療施設・官公庁など、ほとんどの施設で「喫煙専用室を設置できること」にする、②飲食店などについては事業者が「禁煙・分煙・喫煙」のいずれかを選択し、その旨を表示すればよいことにする――というものです。
たばこ議連が3月7日の臨時総会でこの対策を決めると、厚労省はすぐに記者会見して、「妊婦・子ども・がん患者らにとって、受動喫煙防止は生きるために不可欠なものだ」「議連案では、受動喫煙は防げない」と反論し、対立は抜き差しならぬものになっています。
――時代錯誤の対策を決めた「たばこ議連」の会員にはどんな議員が?
麻生太郎・財務相、大島理森・衆院議長、石破茂・元幹事長、竹下亘・国会対策委員長ら、長老議員がそろっています。会員の多くにみられるのは、①自身が喫煙者、②喫煙が比較的自由な政界暮らしが長く、国民の6~7割が受動喫煙反対である世論がわかっていない、③タバコ産業や飲食業などから政治献金や選挙の支援を受けている、といった事情です。
こんな人たちに私たちの健康を左右されてはなりません。実効性のある対策を求めて声をあげましょう。
(注1)2003年のWHO総会で採択されたタバコ規制枠組み条約は、タバコの使用と喫煙の害を減らすために各国政府が実施すべき措置などを定めている。
(注2)厚労省は昨年10月に「たたき台」を発表し、関係者からの意見聴取を経て「基本的考え方の案」をまとめた。
(注3)日本禁煙学会は2月、「IOC・WHOの合意に反する例外規定は認められない」とする緊急声明を発表している。
(2017年4月21日号に掲載)