政府の中長期財政収支見通しは“取らぬ狸の皮算用”(鷲尾香一)
2017年5月1日10:00AM
国際公約となっている2020年のプライマリーバランス(基礎的財政収支、以下PB)の黒字化。結局、達成はできないということが白日の下に晒された。
PBはわかりやすく言えば国債関連の収入・支出を除いた財政を指す。つまり、税収を中心とした歳入で歳出が賄われている姿だ。
企業にたとえれば、無借金経営の上、黒字化となれば儲けが出ている状態になる。
では、今の国家財政はどうなっているのか。当欄でも以前に指摘したが、16年度予算では、三度も補正予算を組み、当初、赤字国債の発行は計画していなかったにもかかわらず、税収不足などから赤字国債を発行するに至った。
16年7月時点での一般会計のPBは11兆6000億円の赤字だったが、今年1月に出された政府の中長期財政収支見通しによると、16年度一般会計のPBの赤字は16兆7000億円と昨年7月時点から5兆1000億円も増加している。
赤字増加の要因は、税収下振れ額が1兆7000億円、社会保障費や交付税以外の歳出増が3兆5000億円となっている。つまり、予算での歳入の見通し、目論見が見事にはずれたのだ。
しかし、中長期財政収支見通しによると、16年度の三度にわたる補正予算による景気対策効果があらわれ、17年度からは税収が着実に増加する見通しにある。
16年度55兆9000億円だった税収は17年度57兆7000億円、18年度59兆6000億円、19年度62兆9000億円、20年度には67兆1000億円まで増加すると予測される。
ただし、この税収見通しは16年7月の時の中長期財政収支見通しと比較すると、各年度とも2兆円程度下方修正されている。
一般会計でのPB対象経費は、16年度が77兆9000億円であったのに対して、17年度73兆9000億円、18年度74兆9000億円、19年度77兆円、20年度79兆6000億円というように、税収が増加する見通しにもかかわらず、19年度までは16年度を下回る水準にある。
つまり、20年度までは歳出を抑制して、一般会計のPB黒字化に向けた努力をしているという“格好”だけでも示そうという浅知恵が見て取れる。
実際、一般会計のPBの見通しでは、20年度の赤字額は6兆8000億円、国と地方を合わせたPBは8兆3000億円の赤字と黒字化など程遠い見通しとなっている。
だが、政府の中長期財政収支見通しは、一般会計でのPB対象経費を抑制していることでも明らかなように、補正予算を組まないのが前提となっている。本当にそんなことが可能だろうか。
百歩譲って政府の見通しのように景気が回復して税収が増えたとする。しかし、景気の回復は日本銀行が実施しているゼロ金利政策を踏まえた未曽有の金融緩和策の終焉を意味する。
ゼロ金利で最も恩恵を受けているのは、タダ同然の金利で国債を発行している政府なのだ。景気が良くなり、金利が上昇を始めれば、国債の利払いが増加し、国債費が膨張することになる。結果、PBの黒字化は遠のく。
政府の中長期財政収支見通しは究極の“取らぬ狸の皮算用”ということになる。
(わしお こういち・経済ジャーナリスト。4月14日号)