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トランプ米政権の「外交ビジネス」(佐藤甲一)

2017年5月10日8:33PM

米国と北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)の緊張が高まる中、4月16日朝、北朝鮮が弾道ミサイルを発射した。ミサイルは空中爆発したとみられ、米韓当局は「失敗」との見方を示している。

今月5日に打ち上げたミサイルも不成功との評価が出ており、2回続けての失態である。すでに、米国側が北朝鮮に対するサイバー攻撃を進めている、との指摘もあり、今回の打ち上げの結果がそうした「電子戦」がもたらしたものだとするなら、米朝はすでに「開戦状態」とみることもできる。

米朝の直接対峙に目が奪われがちだが、米国のシリア空爆に端を発した今回の危機の焦点は別のところにあるとみるべきだろう。それはトランプ政権の「本質的転換」である。

一連の動きの中で従来の解釈では不可解なことがいくつか浮上している。一つは米ロ間の緊張が見せかけではないか、ということだ。というのも、ティラーソン国務長官は予定通り訪ロし、ラブロフ外相とプーチン大統領とも会談した。両国はこの問題を協議するための「特別代表」を任命することでも合意した。溝は深まるどころか、むしろ両国間の「パイプ」は太くなった。

そして、もう一つはトランプ大統領の政策の根幹を支えてきた、バノン首席戦略官の突然の「失脚」である。バノン氏はトランプ氏とともに大統領選挙を戦う中で「アメリカ・ファースト」を掲げてきた。戦後の米国が貫いてきた国際協調路線こそ、一部の既得権者に富をもたらすだけであり、米国が「世界の警察官」をやめることが、アメリカ人誰もが等しく豊かになる方策である、とした。そのために経済分野ではメキシコ国境に壁を設け、国内の雇用を増やし、保護貿易を進め、貿易不均衡を是正する、となったのである。

ところが、こともあろうか人道主義を掲げてシリア攻撃を行なったのは、「アメリカ・ファースト」とは真逆であり、なにより訪米中だった中国の習近平国家主席に対し、北朝鮮への関与を深めれば、米中の貿易不均衡是正について考慮する、との「取引」まで言っている。中国にとり貿易問題は成長戦略に不可欠な課題であり、そのことを取引材料にして北朝鮮制裁の前面に立つことを求めたのである。

これこそ、トランプ政権の経済外交政策の本質的転換と読まないわけにはいかない。バノン氏の国家安全保障会議(NSC)閣僚級委員会メンバーからの更迭はシリア空爆に反対したからと伝えられているが、更迭の本意はこの政策の大転換をめぐる対立にあったと想像される。

この政策転換により、トランプ政権はプーチン大統領、習近平国家主席という地域大国の両リーダーと、国際協調という外交理念ではなく、あたかも商売のように「取引」しながら共同歩調をとり、安全保障上の均衡を図るのではないか、と思えるのである。これこそがトランプ政権が目指す米国による「国際新秩序」、すなわち「外交ビジネス」による真の「アメリカ・ファースト」ではないだろうか。

日本は、こうしたトランプ政権の真意を分析し、その意図と野望を探り、日本が採るべき道の再構築を急ぐべきだろう。トランプ大統領の新外交安全保障政策による「国際新秩序」が、この通りだとしたら、日本の出る幕はない。

(さとう こういち・ジャーナリスト。4月21日号)

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