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命をつなぐ(小室等)

2017年5月16日3:17PM

「さんさ酒屋のコンサート」は岐阜県中津川上野の坂下地区にある蔵元「山内酒造場」で開かれる。主催は二一代当主、山内總太郎氏と満由美夫妻(總太郎氏は、あの伝説の全日本フォークジャンボリーの実行委員でもあった)。

コンサート当日は、小野櫻と春一番地の新酒が蔵出しされ、“かみさん連”の奮闘によるさまざまな手作り料理が並ぶ。仲間たちの畑でとれた新鮮な野菜、とりわけ僕の気に入りは、“みそマヨ”で食べる生の玉ねぎ苗。そう三月一九日、コンサートに招かれ、地付きのフォーク・グループ「我夢土下座」「土着民」らに混ざって歌ってきた。過去三回招かれたが、一八回目の今年が最終回であった。

四月になって、僕の好きな「春一番地」が届いた。同封の山内夫妻のメッセージがあまりに素敵なのでほぼ全文を紹介する。

〈今年も新酒が搾れ、恒例の「さんさ酒屋のコンサート」を催しました。私たち夫婦は今期限りで酒造りを引退することに決め、「さんさ酒屋のコンサート」も今回を最後といたしました。一九年、一八回(大震災の年は中止しました)もやってこられたのもフィールドフォーク(七一年から山内さんたちがはじめたフォークソング運動=小室注)の仲間たちのお蔭です。

私たちの活動は歌だけでなく、もの作りを生業にした者もあれば、農家農村からの情報発信をめざした交流体験農場「椛の湖農業小学校」もやってきました。

「農小」では、農と食に理解を深めてもらい、食の安全と自然や環境を守ることを一緒に考えました。子どもたちに農作業を教えるだけでなく、自然の中での暮らしぶりなど伝えたいことがいっぱいある中で、一番は「我らは野菜の命を途中でいただいて、命をつないでいる」ことを実感してもらうことでした。言葉を替えて言えば「命を大事にする人になってほしい」ということです。

自分の命を大事にする人は他人の命も大事にするはずで、それは自然や環境を大事にし、平和を守ることにつながると信じるものです。その「農小」は昨年度二三期で閉校しましたが、今は新しい交流体験の場を準備中です。

命がないがしろにされたり、平和が脅かされている時代にあって、フィールドフォークの仲間たちもそれぞれの歌や活動をつづけるなかで、小さな声でも上げ続けていくことでしょう〉

「さんさ酒屋のコンサート」は終わったが、山内さんたちの生きる活動はこれからも続く。人知れず、という言い方は適切ではないかもしれないが、人知れず素敵な人は“田舎”に住んでいる。

(こむろ ひとし・シンガーソングライター、4月21日号)

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