石原元都知事への578億円返還訴訟に新展開 豊洲用地取得で東京ガスと「密約」
2017年5月17日10:55AM
東京都の豊洲新市場用地取得に関する公金返還請求訴訟の原告らが4月11日、東京地裁に石原慎太郎元知事、濱渦武生元副知事ら8人の証人尋問を求める申出書を提出した。
都は、2011年に東京ガス(以下東ガス)などから汚染された豊洲新市場用地の一部約10・8ヘクタールを汚染を考慮せずに578億円で買った。これが、知事の裁量を超えて地方自治法などに違反するとして都民40人が都に対して当時の知事だった石原氏に578億円の返還を請求せよと12年に起こしたのがこの住民訴訟だ。
これまで、都は「2002年に都と東ガスが結んだ合意等によって汚染のない価格で購入する契約になっており、その合意等には法的拘束力がある」と主張してきた。
しかし、原告側は「2002年合意等には売買契約時の『適正な時価』で買うとしか書かれておらず、汚染のない価格で買うとは書かれていない」と反論していた。
今年3~4月にかけて開かれた豊洲市場に関する都議会調査特別委員会(百条委員会)には、これまで公表されていなかった都と東ガスの01年7月18日付けの確認書が東ガス側から提出された。
1ページ目右上に「マル秘」と押印されたその確認書には、土地の譲渡価格について「売買契約締結時の時価相当額を基本とし、協議する」とされているだけだ。汚染処理については除去ではなく、拡散防止でよいとされている。汚染地を汚染なしで買う「密約」だ。
都側は、知事本部「野村寛」、東ガス側は、活財推進室「高木照男」と直筆で署名されているが、役職名も公印も押されていない。
百条委員会では、石原元知事や同氏の特命を受けて東ガスとの用地交渉にあたった濱渦元副知事ら喚問された都側の関係者は、野村氏以外全員この確認書を「知らない」と否定した。
しかし、原告側の大城聡弁護士は、「野村氏だけが知っていて石原氏、濱渦氏ら都の決定権者が知らないのは極めて不自然。この確認書が汚染のない価格で買うことを意味する『密約』だとすれば、秘密裏にするために別文書にしたこと自体が都民への背信行為です。そのような『密約』に正当性は認められません」と話した。
【東ガスをボロもうけさせる条件】
濱渦氏はこの確認書が結ばれるわずか12日前の01年7月6日付けで「築地市場の豊洲移転に関する東京都と東京ガスとの基本合意」を締結している。この基本合意には濱渦氏の氏名と東京都副知事の公印が押されている。
そして、7月18日付の確認書は、7月6日付の「基本合意にあたっての確認書」と題されており、別文書ではあるが基本合意とセットであることは明らかだ。
濱渦氏と東ガスとの最初の用地交渉は00年10月4日。その頃、都は豊洲地区の都所有の土地を区画整理事業で東ガスなどの土地と交換(換地)・購入することで市場用地を確保しようとしていた。
そこで、東ガスが濱渦氏に示した用地交渉に応じる条件は、土地区画整理事業に参加する東ガスの負担金と、東ガスの土地価格の推計値はいくらか都が示すことだった。
だが、濱渦氏の結んだ基本合意には、その二つの条件提示がないが、確認書では東ガスなど地権者が負担するはずだった防潮護岸の負担金330億円をゼロにし、東ガスの土地価格は区画整理事業後は推計1661億円になり、371億円も増えるなど東ガスをボロもうけさせる二つの条件が明示されていた。
だから、この点からも「この基本合意と条件提示をした確認書はセットでなければならなかったことが分かります」と原告の1級建築士の水谷和子さんは指摘する。
しかし、百条委員会で濱渦氏は確認書について、「役人が勝手なことをしてくれた」と怒りも露わに、部下の責任に転嫁した。
小池百合子都知事は今年1月、これまでの「石原氏に責任はない」とする都の訴訟方針を見直すことを表明、新方針は近く示される。
(永尾俊彦・ルポライター、4月28日号)