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宋日昊(ソン・イルホ)大使、「朝日平壌宣言は大切」(伊藤孝司)
2017年5月22日5:04PM
朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)が計画する核実験と米韓合同軍事演習で、朝鮮戦争以降で最大の軍事的危機が高まっている。
そうした中で朝鮮は、4月15日に金日成主席生誕105年の記念日を迎えた。その取材に訪れた日本メディアの記者団に、宋日昊(ソン・イルホ)朝日国交正常化交渉担当大使は17日、会見に応じた。それを聞いた翌日、私は記者団と平壌から車で約5時間かかる咸鏡南道(ハムギョンナムド)咸興(ハムフン)市に向かい、残留日本人と日本人妻を取材した。
84歳のリ・ウグン(日本名・荒井琉璃子)さんは、自宅でインタビューに応じた。熊本県出身の両親の間に「京城」(現在のソウル)で生まれる。日本敗戦の混乱の中で家族とはぐれ、朝鮮人に育てられて結婚。中国東北地方と同じ状況がソ連軍管理下の朝鮮半島北部でもあり、残留日本人がたくさんいた。
13日に単独インタビューした「日本研究所」の曺喜勝(チョ・ヒスン)上級研究員は、今までの調査で残留日本人9人を確認していることを明らかにした。咸興市では、在日朝鮮人の夫とともに「帰国事業」によって朝鮮へ渡ったいわゆる日本人妻たちによる「咸興にじの会」の会員たちとその事務所の取材もすることができた。
平壌へ戻った20日夜に、宋大使への3時間に及ぶ単独インタビューが実現。17日の会見では出なかった、より突っ込んだ話があった。
私はまず、残留日本人と「にじの会」を初公開した意図について聞いた。「日本の記者から取材希望があったが、個別に認めると(朝鮮の)工作活動と言われるので、多くの記者が来た時に設定した」と述べた。だが「日本の政府・民間を問わず、(日本人埋葬地)墓参や残留日本人での提起があれば前向きに対応する」と語るなど、人道的課題を見せようとしたのは確かだ。
ストックホルム合意は消滅
宋大使は17日の会見で「ストックホルム合意」は「すでになくなっており、その責任は日本にある」とした。そして「合意」に基づいて日本人調査を実施していた「特別調査委員会」は「解体された」と語った。この発言に対して岸田文雄外務大臣は18日、「まったく受け入れられず、合意の履行を引き続き求めていく」と強く反発。私は宋大使に、それをどのように受け止めるか質した。「拉致問題だけを進めるよう求める発言であり認められない。合意とは、破棄すると再び戻すことができないもの」と述べ、復帰する意思がまったくないことを明言した。
しかし宋大使は「『朝日平壌宣言』は首脳会談によるものなので非常に大切にしており、関係改善の里程標となっている」とした。つまり、金正日総書記が署名した宣言は絶対的なものであり、あくまでも守ろうとしているのだ。
「朝鮮革命博物館」がリニューアルされて3月30日に開館。朝鮮の解放と建国、社会主義建設の歴史が約100室に展示されている。私は外国人ジャーナリストとして初めて取材できた。日本に関する展示室にはパネルや写真、日用品などが並び、植民地支配の実態を細かく解説。昨年6月には、日本・米国との対決の歴史を若い世代に教えることを目的とした「中央階級教養館」がオープンしている。
宋大使は「『朝日平壌宣言』の中核は過去の清算であり、これを抜きにして(日本との)実りある関係は結べない」と語った。その姿勢を改めて示しながらも、日本国内で批判が出にくい人道課題で対話の糸口を再び探る。これが現在の朝鮮の、日本に対する方針のようだ。
(いとう たかし・フォトジャーナリスト。4月28日・5月5日号)
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