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「国際機関に通報したい」 男女賃金差別訴える中国電力社員が外務省に選択議定書の批准を要望

2017年7月4日10:58AM

6月9日、WWNと省庁の意見交換会で発言する長迫忍さん。(撮影/林美子)

「女性の地位が非常に低くて、つらい。タイムリミットはあと5年です。ぜひ5年以内に通報できるよう、批准をお願いします」

中国電力社員の長迫忍さんが、外務省の担当者らに訴えた。6月9日、賃金など職場での男女差別に取り組むワーキング・ウィメンズ・ネットワーク(WWN、大阪)が、東京で開いた各省庁との意見交換会での発言だ。

長迫さんは、職場での男女の賃金格差は違法だとして中国電力を訴えたが、2015年、最高裁で敗訴した。だが、女性差別撤廃条約に付属する選択議定書を日本政府が批准すれば、国際機関に通報して審査を求めることができる。ただし、通報できるのは差別が継続する現役の社員でいる間だけだ。長迫さんの定年は5年後に迫る。

意見交換会は、国連の女性差別撤廃委員会(CEDAW)が昨年3月に出した勧告をめぐって開かれた。女性差別撤廃条約の締約国は、数年に一度、CEDAWに条約の実施状況を報告。CEDAWが審査して総括所見(勧告)を出す。

昨年3月、日本政府に対する5回目の勧告があり、幅広い分野で改善を求める指摘があった。

その一つが個人通報制度を定めた選択議定書の批准だ。昨年3月時点で、締約国189カ国のうち106カ国が批准している。

だが日本政府は、CEDAWが何度も勧告しているにもかかわらず、いまだに議定書を批准していない。昨年2月、CEDAWによる日本審査の際には、「批准については検討中」とする日本政府代表に対し、委員から「何年検討しているのか」と追及する質問も出た。

【女性への「間接差別」だ】

長迫さんの事例は次の通りだ。中国電力の社内で、長迫さんと同学歴同期入社の事務系職員を賃金の高い方から順番に並べると、男性が高く、女性が低かった。そのデータを裁判で提出した。

だが最高裁は判決で、昇格・賃金で男女の格差はあるとしたものの、「男女が層として明確に分離していない」「男女を明確に区別していない人事考課の結果として格差が生じた」などとし、差別だと認めなかった。

「これは女性に対する間接差別です」と、長迫さんは主張する。間接差別とは、一見性別とは関係ないようだが、結果として女性に不利益になるような制度や慣行をさす。

人事考課制度も女性に不利益に働きやすいと長迫さんは指摘する。「たとえば『協調性』という評価基準では、自分の意思をはっきり主張し上司との論戦でも負けないような女性は協調性を欠くと評価されやすく、男性なら信念に基づいて行動すると評価されやすい。結果として女性に不利に働く評価項目が多く含まれている」と言う。

長迫さんは、「日本の司法では敗訴したが、条約の基準に照らしたらどういう判断になるかをぜひ知りたい。現役で働いている第1号として、個人通報制度で訴えたい」と力を込める。

意見交換会で、外務省総合外交政策局の鈴木律子首席事務官は、法務省も出席する研究会を開いて検討を進めていると回答。「CEDAWの審査の結果、国内の確定判決と異なる見解や、通報者に対する補償や損害賠償を求める見解、法改正を求める見解が出された場合にどう対応するのか、各省庁と調整する必要がある」とし、すでに批准した国の対応事例を調査していると説明した。

さらに、「一体何年検討を続けているのかというご指摘は痛いほど感じている。(長迫さんの事例も)導入の必要性に向けた説得のための題材として活用したい。導入に向けて前向きに働きかけていきたい」と述べた。

選択議定書は、自由権規約など他の人権関連の条約にもあるが、日本はすべて批准していない。

国内の人権状況に自信があるなら、政府は議定書を批准して堂々と審査を受ければいい。「女性活躍推進」をうたうなら、今まさに差別される立場におかれ、活躍の道を閉ざされている女性たちの声に耳を傾けることが先決だ。

(林美子・ジャーナリスト、6月23日号)

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