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加計学園問題が暴露した“ミニ独立政府”(佐々木実)
2017年7月10日6:11PM
加計学園の獣医学部新設問題はいまだ事実が解明されていない。現時点でいえるのは、「国家戦略特区」という制度がなければ、この問題は起こりえなかったということである。
前文部科学省事務次官の前川喜平氏は「手記」(『文藝春秋』7月号)で、昨年8月下旬に木曽功氏が事務次官室を訪ねてきたことが「最初の出来事」だったと記している。文科省OBの木曽氏は加計学園が運営する千葉科学大学の学長をつとめる一方で、安倍政権の「内閣官房参与」の肩書きを持っていた。
「国家戦略特区制度を利用して、愛媛の今治に獣医学部を新設する話、早く進めてくれ」。文科省の後輩でもある前川次官にそう要請して、木曽氏は次のような言葉を口にしたという。
「文科省は国家戦略特区諮問会議が決定したことに従えばよい」
文科省次官への木曽氏の忠告は、加計学園問題の基本構図を示唆すると同時に、特区制度の核心をついている。国家戦略特区制度は、安倍政権が生み出した「規制緩和」の強力な推進機関である。発案者は竹中平蔵氏だ。
小泉純一郎政権の閣僚として「構造改革」の司令塔役を果たした実績をもつ竹中氏は、安倍政権の産業競争力会議(現在は「未来投資会議」)で特区制度を提唱した際、「アベノミクス特区」と呼びながら、推進主体となる諮問会議の肝を解説している。
「アベノミクス特区については、これまでと次元の違う特区であり、まず第一に総理主導の特区であるということ。そして第二に、特区大臣が国を代表し、そこに地方の首長や民間が集まって三者統合本部をつくって、そこが、さながらミニ独立政府のようにしっかりとした権限を持ってやっていく、これがキーポイント」(2013年4月17日の議事録)
安倍政権は竹中提案をまる吞みし、早くも2013年12月に国家戦略特別区域法が成立、国家戦略特区諮問会議を経済財政諮問会議などと同様、内閣府の重要政策会議と位置づけた。総理大臣を長とする極めて格の高い会議で、この法律により、「ミニ独立政府」構想は現実化した。竹中氏は独立政府の主要閣僚、すなわち諮問会議の民間議員に就任している。
加計学園問題では、「総理のご意向」と記された文科省の内部文書が問題となっている。留意すべきは、安倍総理大臣が「政府の総理」と「ミニ独立政府の総理」、ふたつの顔をもつことだ。
「岩盤規制改革をスピード感をもって進めるよう、常々指示してきた」と繰り返す安倍総理は、「腹心の友」が理事長をつとめる加計学園の獣医学部新設を特区諮問会議が認めたことがあたかも規制緩和行政の成果であるかのように強弁している。
だが、明らかになった事実だけ並べても、「国民のために既得権益を死守する官僚と闘う」という諮問会議の表看板は実態とかけ離れている。「総理」が横車を押せば押すほど、「ミニ独立政府」は白日のもとにさらされ、むしろ特区諮問会議の素性のいかがわしさが際立ってくる。加計学園の功績は、日本のなかに国民が関知できない奇怪な独立政府が存在することを知らしめたことにこそある。
(ささき みのる・ジャーナリスト。6月23日号)