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「ミサイル避難CM」に4億円近い税金 「恐怖心すりこむ」安倍政権の思惑
2017年7月18日5:10PM
地面に伏せるのがミサイルから身を守る対策なのか──「弾道ミサイル」落下時に取るべき行動を伝える広告を日本政府が6月23日から全国一斉にテレビや新聞などで流している。朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)のミサイル発射実験を想定していることは明らかだ。4億円近い税金をつぎ込むことに批判があがっている。
たしかに北朝鮮は昨年以降、35発のミサイルを発射した。しかし、Jアラート(全国瞬時警報システム)を通じて警報が出されたのは、昨年2月、沖縄県のはるか上空を通過したときだけ。つまり、それ以外は、政府も飛来の可能性はないと判断していることになる。
広告業界に詳しい本間龍さんはこう批判する。「内閣府の政府広報予算は年間約80億円なので、今回の4億円という支出は特別に過大な金額ではありません。政府にとってはマスコミへのいつものアメ(懐柔策)のつもりでしょうが。地方局の社内から『不安をあおる広告をなぜやるのか』と危惧する声があがっています。『本当にミサイルが来るのか』という問い合わせが視聴者からあったようです。しかも広告を流し始めたのが都議選の告示日(6月23日)ですから、なぜこのタイミングなのかという疑問も出ています」。
内閣府政府広報室によると、テレビ広告(約1億3000万円)は6月23日~7月6日まで全国43局で放映した。ミサイルが日本に落下する可能性がある場合、「Jアラート」を通じて、屋外スピーカーなどから国民保護サイレンと緊急情報が流れることを紹介し、
〈屋外にいる場合、頑丈な建物や地下に避難してください〉〈近くに建物がない場合、物陰に身を隠すか、地面に伏せて頭部を守ってください〉〈屋内にいる場合、窓から離れるか、窓のない部屋に移動してください〉
などと呼びかけている。
広告どおりの行動を実際に行なう避難訓練すらすでに実施され、今後、全国でも予定されている。
新聞広告(約1億3000万円)は6月23日~25日の期間に全国70紙に掲載。インターネット広告(Yahoo!JAPANブランドパネル、約8000万円)は6月26日~7月9日に掲載される。
【広告批判ないマスコミ】
そもそも北朝鮮がミサイルを使って日本に先制攻撃することがありうるのか。ルポライターの鎌田慧さんはこう話す。
「北朝鮮の一連の行動を支持はしませんが、北朝鮮の最優先課題はいまの国家体制の維持です。米国本土を攻撃する能力を北朝鮮は持っていませんが、かりに米国を攻撃した場合、その何十倍もの報復を受け、国家指導者が殺害される。日本への先制攻撃も同様にありえません。ミサイル攻撃をいうなら、原発をどうするのか」
では、なぜこんな“むだガネ”を使うのだろうか。
「人間は残念ながら恐怖に弱い。仮想敵をつかって国民に恐怖心をすりこみ、支配を強化し、軍事予算増大につなげる手法は、旧ソ連の脅威をあおった時代から連綿とつづけられ、いまでは国防費は5兆円を突破しました。中国も仮想敵ですが、貿易関係が深まり、また米中が接近するなかで脅威をあおりにくい。このため、北朝鮮の脅威を強調することで、安倍晋三政権への求心力を高め、“憲法改悪”への地ならしを進めています。しかし、北朝鮮の脅威を取り除くには、地道でも平和外交を進めるしかありません。国家崩壊を目指せば、国内外にどれほど多くの犠牲がでるかは明らかなのですから。韓国はすでに舵をきりました」(鎌田慧さん)
気になるのは、この広告を正面から批判する新聞記事が『しんぶん赤旗』(6月23日)ぐらいしかないことだ。『朝日新聞』(同日朝刊)は〈非常事態時の行動をテレビCMで広報するのは異例だ〉と書く程度。『読売新聞』は、6月21日と24日の2回にわたって、政府の主張をなぞるような記事を掲載した。広告(カネ)をもらっているから批判しづらいというのであれば、こんな情けないことはないだろう。
(伊田浩之・編集部、7月7日号)
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