中国の多面性を見よ(西谷玲)
2017年7月19日6:44PM
東京都議会選挙(7月2日投開票)では自民党が歴史的大敗を喫した。この結果がいかに国政に影響するかどうかが当面の焦点だが、ここではちょっと違う話題にふれたい。中国の話である。
今月1日に香港の中国返還20年を迎え、記念式典で演説した習近平国家主席は、独立を容認しない考えを強い表現で示した。これに見られるように昨今の中国には、人権についての厳しい姿勢が目立つ。ノーベル平和賞を受賞した人権活動家、劉暁波氏ががんに侵され、海外での治療を希望しているとされるが叶わない(編注:7月13日死去)。ネットの統制を強める「インターネット安全法」も施行された。中国では以前からグーグルもフェイスブックもツイッターも使えない(それに類する中国独自のものはあるが)。
だが、中国の社会はこれだけが事実ではない。たとえば、今年4月に本誌で麻生晴一郎氏も指摘していたように、中国では今、多くのNGO(非政府組織)が台頭しつつある。こちらでも人権系のNGOは規制され、海外のNGOとつながる団体には「境外NGO管理法」が施行されて監視も強化されているものの、他方では政府はNGOとの連携も強化しているのである。というのは、環境悪化や都市と地方の格差、貧困問題、教育など、中国は社会的課題が多すぎて、もはや政府の力だけでは対応できないのだ。NGOの力を必要としているのである。
しかも、都市部を中心に豊かな環境で育ってきた若者たちや、若くして事業で成功して富を得た人々がいる。経済的には満ち足りた彼らが、社会的課題の解決に興味を持ち、NGO活動に流入してきているのだ。ビジネススキルやノウハウを持ち、それを社会的課題の解決に生かす。しかも、資本も持っている。これはこの業界に大きな進歩と変革をもたらす可能性がある。日本でも同様の現象はあるが、はるかに中国のほうが速い。人数も多い分、変化がダイナミックなのである。
彼らは政府に対して、いろいろ思うところはあるものの、正面きっては歯向かわない。それをどう評価するかは別だが、いわば面従腹背的な活動で、目の前の社会的課題の解決をめざしている。政府も彼らの活動に頼っている側面があり、これは体制にもいずれ変化をもたらすかもしれない。
そして、テクノロジーの進化もカギである。IT(情報技術)の進歩で、コストをかけずに多くのことが可能になっている。たとえば、NGOではないが、今、北京で大はやりなのが乗り捨て自転車。シェアリングエコノミーの一種でレンタルサイクルなのだが、ITで管理をして、そこに自転車があればどこから乗ってもいいし、どこにでも乗り捨て可能なのだ。日本でもレンタルサイクルは普及しつつあるが、どこでも乗り捨て可能、というわけではない。
こういった中国の側面を理解しなければ、日本は置いていかれるだけである。ほかにもある。北京や上海といった都市部では、ベンツやBMWなど、高級外車が走っている率は日本より高い。しかも、若者はおしゃれである。一見しただけでは、中国人だか日本人だかわからない。そして、大学教育を受けた人々は当たり前のように英語を話す。我々は、自分たちの見たい中国の部分だけ目を向けていないだろうか。
(にしたに れい・ジャーナリスト、7月7日号)