連合の「変心」 政府の「残業代ゼロ法案」を容認したわけ
2017年8月1日10:46AM
「残業代ゼロ法案」とも批判される労働法制の見直しに、一貫して反対してきた労組のナショナルセンター・連合。それが一転、修正を条件に法案を受け入れ、政府と手を握った。高収入の一部専門職を労働時間規制の対象外とし、成果に応じた賃金とする「高度プロフェッショナル制度(高プロ)」新設を盛り込んだ労働基準法改正案を巡る動きだ。国会で2年以上も棚晒しにされてきた同改正案は、成立に向けて動き出した。
7月13日夕、首相官邸。連合の神津里季生会長から高プロの修正案を示された安倍晋三首相は「しっかり受け止めて検討する。経団連とも調整する」と応じた。「過労死を助長する」と高プロを批判してきた連合だが、この日神津氏は「年104日以上の休日確保の義務づけ」を柱とする修正案を持参し、「認めるなら政府案に賛成する」と示唆していた。近く政労使で合意し、政府は修正した労基法改正案を提出し直す。
政府が高プロを含む労基法改正案を国会に出したのは2015年4月。残業代を抑えたい企業の意向を受け、「生産性向上」を目的として打ち出した。対象は研究開発などを手がける年収1075万円以上の人。ただ、対象者は残業や休日出勤をしても、労基法で定めた賃金の割り増しを受けられなくなる。過労批判を受け、政府は「年104日以上の休日取得」か「労働時間の上限設定」、または次の始業までに一定期間の休息を設ける「勤務間インターバル」のいずれかを企業に採用させる案も折り込んだものの、連合や民進党など野党は反発し、これまで審議に入ることさえできずにきた。
ところが連合は、ここへ来て条件付きで賛成に転じた。自らも政府の会議に参加し、3月に合意した「働き方改革実行計画」を反映させた労働法案が、秋の臨時国会で審議されるという事情が背景にある。
同計画は「同一労働・同一賃金」の導入や労働時間の上限を「年720時間」に規制することがメインながら、「高プロの早期成立」も含まれている。連合関係者は「3月時点で、同一労働・同一賃金などの成果を得る代償として、高プロという足かせをはめられていた。どうせ成立するなら過労防止策をのませた方がいいと判断し、政府や経団連と接触してきた」と漏らす。一方、内閣支持率の急落に喘ぐ首相は、「働き方改革の実現」という政策の目玉を欲していた。
【裁量労働制拡充案も問題】
連合の変心は、組織内でも唐突と受け止められている。8日、主要産業別労働組合幹部に修正案を説明した際は「組合員に説明がつかない」との異論が続出した。連合の支持を受ける民進党も困惑を隠せない。13日、神津氏は蓮舫代表に電話し「コミュニケーション不足を陳謝したい」と謝罪しつつ、連合案は労働者の健康を守るものだと伝えた。蓮舫氏は同日の記者会見で、対応について「現段階では話せない」と言葉を濁した。
それでも、共産党との選挙協力を巡って連合と溝を深める同党の現状を踏まえ、安倍政権幹部はこう言い切る。「民進党もこれ以上、支持母体とケンカはできないだろう。賛成せざるを得ない」。
連合案は「年間休日104日以上」の義務付けに加え、勤務間インターバルや2週間連続の休日取得などから複数選択するといった、企業を制約する内容が並ぶ。それなのに、経済界から大きな反発は聞こえてこない。大手製造業の役員は「高プロは年収要件などで対象が絞られすぎ、企業は多くを期待できないから」と言う。
むしろ経済界が注目するのは、労基法改正案で高プロとセットの「裁量労働制」拡充案だ。労使であらかじめ労働時間を想定し、残業代込みの一定賃金にする制度で、現行は対象者をデザイナーなどの専門業務に限っている。これを生産管理などの企画業務にも広げるのが政府案で、運用によっては人件費を抑えることも可能となる。厚生労働省幹部は「経済界の本音は、目立つ高プロの陰に隠れた裁量労働制の拡充。それはずっと変わっていない」と明かす。
(吉田啓志・『毎日新聞』編集委員、7月21日号)
【編注】連合はその後、容認を撤回しましたが、重要な論点を含んでいますので、掲載します。(2017年8月1日追記)