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安倍首相は「火中の栗を拾いにいく」のか(佐藤甲一)
2017年9月5日4:04PM
「冒険」とは、成算の少ない一種の賭けでもある。
7月28日午後、評論家の田原総一朗氏が首相官邸を訪れ、安倍晋三首相と面談した際に用いたとされるのが「冒険」という言葉である。その後思わせぶりにメディアの取材に応じた田原氏だが、安倍首相に「政治生命を賭けた冒険」を進言したことを明らかにしたものの、内容については言及を避けた。
巷間、その「冒険」とは北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)訪問であるとか、消費税の引き下げ、などと憶測が飛び交い、その後8月3日に行なわれた内閣改造の後は、この問題は大きく取り上げられることなく、推移してきた。
一方で、安倍首相は8月15日の「終戦記念日」にトランプ米大統領と北朝鮮問題で電話会談。北朝鮮がグアム島周辺へのミサイル発射計画を明らかにし、これにトランプ大統領が警告するなど米朝間の緊迫が高まる中での会談だったが、その晩には山梨県鳴沢村の別荘近くで森喜朗、小泉純一郎、麻生太郎の3元首相らと約3時間にわたり会食。新聞などでも特に大きく報じられることはなかったが、この15日の動きこそ「冒険」の中身と関わっているという。
安全保障政策に関わるある政府関係者は、7月末の田原氏との会談後、首相は熟考を重ねてきたのだと説明する。導いた結論、つまり安倍首相がいまできうる「冒険」とは「安倍訪朝」以外にない、というものだった。15日のトランプ氏との電話会談、そして同じ晩の3首相経験者との会食の主要議題こそ「安倍訪朝」の内諾、そして訪朝経験者を招き、何がなしうるかの検討会だったというのだ。
政府関係者は、その直後の17日に行なわれた日米の外交・防衛担当閣僚による「日米安全保障協議委員会」、いわゆる「2プラス2」では安倍訪朝に関する米国側との具体的なすり合わせが隠された主要議題だった、と指摘する。米朝の対立が一度は頂点に達し、金正恩氏の「米国の様子を見守る」発言でいったん緩和したかのように見える米朝関係の陰で、日本を軸にした、対話のための工作が進行している、というわけだ。
しかし、先の政府関係者に「日本が持っていけるものは具体的にあるのか」と尋ねると、案の定「それはない」という。それでも、この訪朝が期待されるのはなぜか。マティス米国防長官の選択の中に北朝鮮への武力行使は絶対にない、韓国に人的被害が出ることは、市民を巻き込むことは軍人として軍歴の汚点となることだけに、「ありえない」という。ならば残された選択は対話しかないが、米国が直接関わることになれば、失敗は許されない。その前にどうしても北朝鮮の出方を探る必要がある。その「火中の栗を拾いにいく」のが安倍首相、ということか。
有効な交渉のカードもなく敵地に赴くのは「冒険」ではなく「無謀」である。まして、この訪問が安倍首相にとって唯一の利点と見ることができる「拉致問題」解決のきっかけにつながる見込みは、今のところ見いだしえない。
政権浮揚の有効な手立てもなく、悲願とする憲法改正の実現はすでに「黄信号」が点っている安倍政権。訪朝の模索は真夏の「怪談」なのか、それとも東アジアの安定をもたらす歴史的な試みが水面下で進んでいるのか。「2週間前後で、その姿は見えてくる」というのだが。
(さとう こういち・ジャーナリスト。8月25日号)
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