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英国の野党が示す大人っぽさ(浜矩子)
2017年9月19日11:54AM
日本の半歩先を行く英国。折りに触れてこのイメージが頭に浮かぶ。日本からほんの少し先行して、やってはいけないことをやらかしてくれる。だから、日本が賢ければ、英国の振りをみて我が振りを直せる。その意味で、英国は日本にとって格好の反面教師だ。ところが、せっかく目の前で英国がダメな例を示してくれているのに、日本はまっしぐらに進んで、同じ落とし穴に落ちる。こういうことが、どうも、よくある。
1990年代後半、労働党トニー・ブレア政権の下で、英国は規制緩和と民営化の道をひた走った。その結果が格差拡大と貧困の深化だった。何もかもが民営化されていく中で、労働環境の劣悪化と賃金への下押し圧力が人々を襲った。
ブレア政権に遅れること、まさに半歩という感じのタイミングで、日本では自民党小泉政権が誕生した。構造改革の看板を振りかざす彼らの下で、「民に出来ることは民へ」の方針が打ち出された。その実情は、官がやるべきことさえ民に丸投げするというやり方だった。まさしく、ブレア政権の民営化路線を半歩遅れて踏襲した観が濃厚だった。その結果、日本でもまた「下流社会」や「ブラック企業」や「失われた中間層」が問題になる展開となった。
半歩先の反面教師が犯してくれていた失敗を、もう少し真剣に注意深く見つめていればよかったものを。当時、つくづく、そう思ったものである。
ところが、このところ、少し肌合いの違うイメージが出現してきている。今この時、珍しく、英国が日本にとって反面ならぬ「正面」教師になってくれているかもしれない。そう思える動きが出ている。
目下、英国の保守党メイ政権が、EU離脱問題を巡ってなかなかの醜態をさらけ出している。現実的な離脱シナリオをなかなか提示できない。「潔い離脱」を振りかざすばかりで、離脱に向けての移行をどう切り盛りするつもりなのかが一向に見えてこない。離脱後の対EU関係についても、「特別で深い関係」を構築すると言いながら、そのために英国側がどのような対応をするつもりがあるのかを明示しない。EU側も、英国のこの煮え切らないというか、内容空疎で突っ張りばかりの態度に苛立ちを隠さない。
ここまでだけなら、英国の姿勢は、やっぱり反面教師的だ。だが、話はこれからである。
ここにきて、野党労働党から、独自のEU離脱シナリオが出た。彼らいわく、移行期間をゆっくりとらせてもらったらいい。その間は、従来通りEUとの単一市場関係を維持したらいい。今まで通りの日常を、とりあえず続けさせてもらう。そのために必要なコストは受け入れる。この状態で、時間をかけながら、双方納得できる離脱の形に辿り着けばいい。
これは、大人の提案だといえる。頭に血が上った感じがない。肩肘を張っていない。英国らしさがある。この提案で党内世論を結集させることができた点も、重要だ。 この良識ある雰囲気を保ち続けることができれば、労働党は次の総選挙に勝てる可能性が大きい。半歩先で英国の野党が示した大人っぽさ。これを日本の誰に学んでほしいか。それは言わずもがなだ。
(はま のりこ・エコノミスト。9月1日号)