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公約破りは次の選挙に影響する!?(西川伸一)

2017年10月6日6:12PM

8月末にアメリカ映画『パターソン』を観た。ラストシーン近くに、永瀬正敏扮する日本人の詩人が出てくる。やはり詩作が好きな主人公パターソンに、自作の日本語の詩を綴ったノートを見せながらこう言う。「詩の翻訳はレインコートを着てシャワーを浴びるようなものだ」

山尾志桜里衆議院議員のスキャンダル報道の過熱ぶりに「またか」とうんざりしつつも、私はこの台詞を思い出した。政治家に聖人君子たれと求めることは、「レインコートを着てシャワーを浴びるようなもの」ではないかと。

今年4月には、週刊誌に不倫を暴露された自民党の中川俊直衆議院議員が離党を余儀なくされている。山尾氏は「男女の関係はありません」などと釈明して民進党を離党した。実はどうであったかよりも、どう見えたかが重要なのだ。山尾氏の行動は、自民党議員の不倫問題を厳しく追及してきただけに、あまりに軽率すぎた。

ただ、ここで考えたいのは、彼らが政治とは無縁な私的な行状で失脚させられたという事実である。もちろん、彼らに同情などしていないし、政治家ならば不倫をしていいと主張したいわけでもない。

それでも、不倫のみならず、政治家は本来的な力量を測るのとはかけ離れた基準によって品定めされていないか。かつて漢字が読めないことを揶揄された首相がいた。政治家になる前の「秘密の過去」を暴かれて初当選に泥を塗られた衆議院議員もいた。前東京都知事はドケチぶりをずいぶんからかわれた。秘書への暴言と暴行が報じられて自民党を離党した衆議院議員は記憶に新しい。

このように、善悪のわかりやすいネタでなければ週刊誌は売れないし、テレビのワイドショーは視聴率を取れないのだろう。だが、おもしろおかしく袋だたきにしてレッテルを貼ることは、彼らの政治家としての資質をチェックしたことになるのか。事の本質を見失っていないだろうか。

マスメディアがまず目を光らせるべきは、ある公約を掲げて当選した候補者が、当選後その実現を目指して誠実に行動しているかどうかである。たとえば、公約に従って国会で発言しているか、国会で投票しているか。公約に反した発言や投票をしていたと知れば、有権者は次の選挙でその議員を落選させよう。こうして代議制民主主義のチェック機能が働く。

実際に、議員が選挙時に訴えた公約と当選後の国会での発言は、一致しているのか。そして、これは次の選挙におけるその議員の当落に関係するのか。同様に、公約と国会での投票行動の一致の有無についてはどうなのか。これらを統計分析すると、いずれも関連性は導き出せなかったという(小林良彰ほか『代議制民主主義の比較研究』慶應義塾大学出版会)。つまり、議員が国会で公約とは異なる発言をしようと、投票をしようと、それは次の選挙結果には影響しないのである。そこで、公約は平然と無視され、選挙は議員の資質評価ではなく「レッテル投票」になってしまう。

マスメディアに踊らされて投票する有権者が悪いと批判することはたやすい。しかし、有権者にとって、たった1票のためにかけられる情報収集のコストは限られている。私たちは「スキャンダルの商人」たちの格好の餌食なのだ。

(にしかわ しんいち・明治大学教授。9月15日号)

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