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緊急対談 
衆院選で問われる日本政治の新しい対決軸、
リベラル陣営のリアリズムとは
(山下芳生×中島岳志)

2017年10月14日4:40PM

大切なものを“守る”ための改革が必要

中島 そこで<図>の〈ローマ数字2〉の軸、野党共闘について考えてみると、保守である私の考えと共産党の挙げる政策には一致点が非常に多い。最近、面白い論考が『中央公論』10月号に出ていて、世論調査をしたところ、共産党を保守の側だと位置づける若者が多いというんです。これは、国民の生活を守る、地方における零細企業の雇用を守る、グローバル資本主義経済の餌食にならないよう農家の所得を守るなど、共産党が「生活の地盤を守る」ということを非常に強く言っているからだと思います。それが若者にとっては大変保守的なものだとうつる。

私はこの若者の感覚はするどいと思っていて、私自身もここ5年ほど、保守を考えれば考えるほど共産党の主張と近くなっていくという現象を体験しています。「大切なものを守るためには変わらないといけない」というのが基本的に今の共産党の政策だとするならば、保守の哲学者エドマンド・バークが言ってきた「保守するための改革」ということとまったく同じなんです。

共産党はTPP反対であり、日豪EPA(経済連携協定)や日米FTA(自由貿易協定)についても非常に厳しい立場ですので、グローバル資本主義や新自由主義の暴走への対峙というその姿勢も私と一致します。さらに、大企業に課税し、引き下げられすぎた所得税の最高税率を元に戻すべきだとする共産党の姿勢も当然の話で、安倍さんの言う消費税増税より先に手をつけないといけない。内部留保を社会に還元して、最低賃金を上げるという共産党の政策もその通りだとしか言いようがなく、保守的な政策に見える。

山下 アベノミクスは開始から5年弱経つのに、恩恵の実感を持つ人が非常に限られている。これは失敗であったと位置づけられるべきものなのに、自民党は今回の選挙公約にアベノミクスの「加速」を挙げています。グローバル資本主義や新自由主義のもとで、安倍さんのやっている政治は、ごく一握りの富裕層と大企業の利益をさらに増やしているだけにすぎません。「大企業が豊かになれば、やがて富が国民全体にしたたり落ち(=トリクルダウン)、経済が成長する」という説明でしたが、大企業の利益は史上最高を更新し続けているのに、労働者の実質賃金はずっと減り続けている。中間層がやせ細り、貧困層が増大しています。

その最大の原因は、1990年代の雇用破壊だと思います。1999年の労働者派遣法改訂により雇用の規制が緩和され、派遣労働が基本的に自由化されました。2004年には製造業への派遣も解禁された。こうして、どんなに企業が利益をあげても、それが労働者にトリクルダウンしない仕組みが作られ、企業の内部留保が膨らみ続けている。

日本経済全体が健全に成長発展するには、労働者派遣法を抜本改正して規制を元に戻す、中小企業の支援とセットで最低賃金を引き上げるなど、内部留保を社会全体に還元する政策を進める必要があります。破壊された雇用のルールを再構築しなくてはいけない。

中島 その通りだと思います。私は保守の立場から派遣労働に反対してきました。福田恆存という戦後保守を支えてきた文芸批評家の著書『人間・この劇的なるもの』(56年、新潮社)が私の座右の書なのですが、ここでは人間は演劇的な動物であると述べられている。社会の中で人間は役割というものを演じ、その役割を味わいながら生きていると。自分がその場で必要とされ、役割が与えられているということが人間にとっては重要だと彼は言っている。

これはきわめて保守的な人間観だと思います。しかし、派遣労働あるいは非正規労働は、ここを破壊する。とくに派遣労働者は、現場で「派遣さん」と呼ばれ、代替可能性というものを常に突きつけられている。

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