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過去に学ぼうとしない安倍首相(黒島美奈子)
2017年10月20日2:17PM
遅まきながら、話題のドキュメンタリー映画『米軍が最も恐れた男、その名は、カメジロー』を観た。上映は沖縄で唯一インディーズ作品を提供する桜坂劇場で、しかも連日長蛇の列と聞き、「必ず観よう」と決めていた。それなのについ先延ばしにしていたら、公開37日目に「沖縄で観客1万人突破」と報道されたので、慌てて観に行った。
カメジローとは、言わずと知れた沖縄出身の政治家・瀬長亀次郎。1950年代、米軍統治下の沖縄で「沖縄人民党」を結成した。ポツダム宣言に心酔し、日本国憲法を愛して、その対極にある米軍の圧政に真っ向から異を唱えた。
政治活動の原点は、労働運動だ。米軍施設を造るため県内外から集められた労働者が食事も満足に与えられず押し込められていると知り、駆け付けた。その労働者たちを救うため、琉球政府下で初めて労働法の制定を提案し実現した。
映画では、絶対的権力を握る米軍が中傷ビラや投獄などあの手この手を使ってカメジローを政治から遠ざけようと画策したエピソードと、そうすればするほどカメジローにのめり込んでいく県民の姿が映し出されている。佐古忠彦監督は舞台あいさつで、「今、求められる政治家像だ」と評していた。
戦後初の「沈黙解散」が行なわれる現代の政治家像は、どうだろう。報道から知るのは、政権の長期化を狙い大義なき解散に走る安倍晋三首相とそれに追従する自民・公明両党、同様に大義なき離党・結党を繰り返して自滅の道を走る一部野党や新党の姿だ。
9月20日の国連演説で、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)に核を放棄させるのに必要なのは「対話ではない。圧力なのです」と言い、あおるだけあおった安倍首相は、その渦中に国会を空にするという暴挙に出た。
対する民進党の前原誠司代表は、支持率低迷の最中の選挙戦突入の危機にもかかわらず、安倍政権を揺さぶる唯一の可能性=共産党との連携=さえ二の足を踏む。どちらも保身の末の行動にしか見えない。
小池新党と言われる「第三の勢力」も、改憲推進・安保法容認など安倍政権とほぼ変わらない内実が判明すれば、解散の意義はますます見えない。今選挙も盛り上がらないのは必至で、投票率の低迷だけがニュースに違いない。
ただ懸念するのは、どんなに大義が見出せずとも、今回の結果が日本の分岐点になるだろうという点だ。「教育の無償化」や「森友・加計問題」など、各党が主張する選挙の争点がメディアを騒がせているが、今選挙が最も反映される真の争点は緊迫する北朝鮮外交であり、改憲だ。
「窮鼠、猫を噛む」という。安倍政権の下、このまま圧力一辺倒でいけば、北朝鮮は近いうちにデッドラインを超えるだろう。日米開戦の理由をひもとく『日本はなぜ開戦に踏み切ったか』(森山優著、新潮選書)には、「自衛のため」対米報復するという陸軍の案に、半ば自暴自棄になって突き進む東条内閣の姿が描かれる。その姿は今の北朝鮮と重なる。
国会で「ポツダム宣言はつまびらかに読んでいない」と明言した安倍首相には、過去に学ぼうとする姿勢は見えない。今選挙ばかりは「ほかにいい人がいない」という理由で、投票しない方がいい。
(くろしま みなこ・『沖縄タイムス』記者。9月29日号)