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情けない安倍首相の“いいとこ取り”(鷲尾香一)
2017年10月29日3:03PM
安倍晋三首相は9月28日、臨時国会の冒頭で衆議院を解散した。何のための解散なのか、森友・加計問題を追及されるのが嫌だったのか、解散の大義がどこにあるのかわからないままの解散となった。
安倍首相は解散の理由を、2019年10月に予定されている消費税率10%への引き上げによる増収分の使途を変更し、債務返済に回すはずだった約4兆円の中から、教育や子育て支援に2兆円規模を充てることについて、「国民の信を問う」とした。
しかし、消費税率の引き上げによる増収は社会保障4経費(年金、医療、介護、子育て支援)に“すべて充当する”ことが、2012年の3党合意(民主党、自民党、公明党)による「社会保障と税の一体改革」で定められている。
事実上、民主党が消滅した現在、3党合意を安倍首相が勝手に破棄するという信義問題は置いておくとして、今回の消費税率増収分の使途変更は、よく見るとお得意の“安倍マジック”であり、安倍首相一人勝ちの構図が透けて見える。
債務返済を先送りするということは、財政は痛まないように思えるが、事実上、赤字国債の発行が続くことを意味する。
また、詳細は明らかになっていないが、教育や子育て支援の2兆円支援がいつから始まるかだ。消費税率が10%に引き上げられるのは、2019年10月の予定であり、その増収分がフルに入ってくるのは、2020年分、つまり、2021年になってから。それ以前に教育や子育て支援の2兆円がスタートするのであれば、その財源は赤字国債に頼るということになる。つまり、財政悪化要因だ。
また、消費税率10%への引き上げは、教育や子育て支援対象者にも、増税という負担を強いることにもなる。そして、何よりも問題なのは、安倍首相は、華々しく政策を打ち出すだけで、将来に待ち構える難問は、安倍政権後のあとの政権が取り組むことになる。
国際公約となっている2020年のプライマリーバランス(PB)の黒字化は、先送りされる。安倍首相は「財政再建の旗は降ろさない」と強弁するが、教育や子育て支援を開始すれば、債務返済の財源は少ない。安倍首相の任期は最大2021年9月までだから、PBの黒字化達成は、安倍首相の後の首相が負うことになる。ちなみに、今回の総選挙の当選代議士は、衆議院の任期が4年なので、任期満了は2021年10月と安倍首相の任期に合致する。
2020年の東京五輪が終われば、少なからず五輪景気の反動から、景気が落ち込むことは予想できる。つまり、税収も期待できない。
結果、消費税率の再引き上げに踏み切ることになろう。消費税率が8%になったのは、2014年4月。10%になるのは2019年10月。その間、約5年半。しからば、次の消費税率引き上げは、単純に5年半後なら2025年4月ということになる。つまり、安倍首相の後の首相の仕事だ。
債務の返済、PBの黒字化、あるいは次の消費税率の引き上げは安倍首相以外が対処しなければならないのだ。国会での検討もなく、世間受けする、安倍首相の“いいとこ取り”の政策が、衆議院解散の理由とは、何とも情けない。
(わしお こういち・経済ジャーナリスト。10月13日号)