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安倍首相、「ニュース23」キャスターを非難(佐藤甲一)

2017年11月3日3:25PM

希望の党の登場で政権交代の可能性が注目された今回の衆議院選挙。だが、小池百合子代表の候補者の「排除」や自身の出馬問題などの影響もあって党の勢いは失速した。公示前後の情勢調査に基づき新聞各紙は自民党と公明党で「300議席を超える勢い」と報じている。

自民党は大幅に議席を失うどころか、微減もしくは「生数字」では288議席とはじいた社もあるほどだ。政権交代の流れはもはや途絶えたと言っていいだろう。この情勢に安倍晋三首相の心が弾んでいることは言うまでもない。またぞろ「傲慢(ごうまん)」な姿勢が頭をもたげ始めている。

「あなたたち3人は笑われているんですよ」。公示直前の9日夜、安倍首相は3人のキャスターに向かってこう言い放った。東京・赤坂のTBS局内でのことだ。

この日は安倍首相をはじめ希望の党の小池代表、公明党の山口那津男代表ら各党党首を集めて、その日深夜のニュース番組の収録が行なわれた。いわゆる「党首討論」である。収録は放送用語では「疑似生」と呼ばれる方式で行なわれた。つまり本番と同じように放送部分を収録しつつ、実際のCM時間と同じだけ収録しない「休み」があり、また収録を再開するという方式だ。その収録と収録の合間の「休み」時間に、安倍首相はTBSの「ニュース23」のキャスター陣に面と向かってそう言葉を投げかけたのだという。

同番組にかかわらず、報道機関が権力の振る舞いを厳しい視点で見ることは当然の責務だ。放送法で規定されているとはいえ、そうした権力チェックは国民の「知る権利」に基づいて放送局においても、「公平公正」の範囲で認められている。つまり、放送権とは「お上」から与えられたものではなく、国民から負託された知る権利の下にあるべきものだ。

ところが安倍首相は続けてこうも指摘したという。「あなた方のやっていることは『報道ではなくて運動』ですよ」。同番組は日々の放送の中で森友学園問題や国家戦略特区にかかわる加計学園と安倍首相の関わりについて取り上げてきた。だがそれはなにもこの番組に限ったことではない。

だが安倍首相は、それを権力の行き過ぎをチェックする報道機関としての当然の行為とは受け取らず、「倒閣運動」と受け取っているらしい。各党党首の面前でこうした発言を繰り返したのは、自民党候補者の堅調な戦いぶりと勝利への予感に裏打ちされてのことだろう。

かつての自民党重鎮たちは、勝っても負けても報道機関をあからさまに敵視したり、社ごとに「排除」「選別」することはなかった。そこには「批判されることこそ権力の証」と受け止め、批判されるぐらいがちょうどよい、とする余裕があった。だが、安倍首相にそうした権力者のゆとりは微塵も感じられない。あるのは自分に向けられた批判に対する報復まがいの言葉、過剰な反応だけだ。

内閣支持率が急落した7月前後に口にした「謙虚な」政治姿勢や国民に対する「真摯な」説明がもはや望めないことは、先に示した「言葉」からも明らかだ。

あわせて、希望の党が国民に政権交代の幻想を抱かせ、代表自らの傲慢とも言える政治手法の誤りによって失望に転化させたことが自民勝利の道を開いたとも言える。結局、安倍政権延命に手を貸した小池東京都知事の罪も深い。

(さとう こういち・ジャーナリスト。10月20日号)

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