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安倍政権の「GDPかさ上げ疑惑」(佐々木実)

2017年11月4日10:00AM

「2016年度のGDP(国内総生産)は史上最高ですよ」

テレビニュースの党首インタビューで、安倍晋三首相が「史上最高のGDP」を誇示するのを見て、「基準変更」への疑問が再び頭をもたげた。

今年2月にこのコラムで触れたが、安倍政権は昨年12月にGDPの算出基準を大幅に変更している。その時点で最新のデータだった2015年度は、従来の基準で501兆円のGDPが、新たな基準のもとで532兆円。基準変更のみで30兆円以上増えていた。

2015年9月に自民党総裁に再選された安倍首相が「GDP600兆円の達成」を掲げたこと、安倍政権がGDP算出基準をさらに「大改訂」する作業を進めていること、をコラムでは紹介したのだが、内容は踏み込み不足だった。

明石順平氏は『アベノミクスによろしく』(インターナショナル新書)で「GDPかさ上げ疑惑」という章を設け、昨年12月のGDP算出基準の変更を検証している。

基準変更をかいつまんで説明すると、主な理由は二つあり、「基準年」の変更と、「算出基準」を国際基準にあわせ変更したことだった。

ところが、じつはこれ以外に「その他もろもろの変更」があり、この根拠不明な変更で安倍政権の時期の数字だけが「かさ上げ」されていた。たとえば、安倍政権発足前の2012年度は0.6兆円しか増えていないのに、2015年度は7.5兆円も増えている。こうした「操作」の積み重ねが、安倍政権に都合の悪いデータを「削除」する効果をもったのである。

明石氏によると、昨年12月の基準変更によって、マクロ経済統計から読み取れる「アベノミクス失敗」を象徴する五つの現象がすべて消えた。「戦後初めて2年度連続で実質民間最終消費支出が下がった」などの現象である。2016年度のGDPが史上最高を記録したのも、旧基準なら史上最高の1997年度が相対的に低く修正された結果だった。「歴史の書き換えに等しい改訂がされた疑いがある」と明石氏は疑問を呈している。

選挙戦で安倍首相は、過去に遡って「改訂」されたマクロ経済統計を存分に活用している。彼は「経済運営の成功」というイメージづくりが、自らに強い求心力を与えてくれることを身をもって知っている。投資家に大歓迎された「異次元金融緩和」は結局失敗に終わっているが、安倍首相には今なお「成功体験」と映っているのではなかろうか。

英国在住のブレイディみかこ氏の「反緊縮を進める欧州左派」(『世界』11月号)という論考が参考になる。欧州各国で左派が反緊縮政策を唱える背景には、極右が先にこうしたポピュリズム的政策を手にすると危険だという切迫した危機感があるという。欧州の歴史には、ヒトラーという悪しき成功例があるからだ。

今年6月の英国の総選挙で躍進した労働党のコービン党首が、金融緩和政策を「ピープルズ・クオンティテイティブ・イージング(人民の量的緩和)」と呼んで支持したことは示唆に富む。欧州は政治抜きに経済を語れない危うい状況に突入しているが、他人事ではない。アベノミクスもこうした文脈のなかで捉え直してみる必要がある。

(ささき みのる・ジャーナリスト。10月20日号)

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