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総選挙公示翌日に大型ヘリ炎上(黒島美奈子)
2017年11月10日10:00PM
事故発生は、衆議院選挙公示翌日の10月11日夕。沖縄の選挙期間は、米軍普天間飛行場所属のCH53E大型輸送ヘリ炎上事故とともに幕を切る形となった。
事故の一報は、炎上現場となった東村高江の住民からの「ヘリが墜落した」という消防本部への119番だ。2004年の沖縄国際大学へのヘリ墜落事故と同様、県民の目の前で事故は起きた。
加えて今回は、修学旅行で沖縄を訪れていた人もたまたま事故現場に居合わせ、事故の様子を撮影した動画をネット上に発信した。のどかな農村風景の一角、手入れされた緑の牧草地で、真っ赤な炎と黒煙をあげる物体の映像は、いち早く拡散された。それは、米軍ヘリの事故が、住民の生活や命を脅かしているという実態を正確に伝えている。
一方、東京発の報道で知る事故は、今回も、目撃した住民の実感からはほど遠い内容となった。
現実との乖離を象徴したのが同日、事故について記者の質問に答える小野寺五典防衛相の言葉だ。ヘリが炎上した事故現場は、民家から徒歩で数分の牧草地であり個人所有の土地であるにもかかわらず、小野寺防衛相は「北部訓練場近くの施設区域外」とした。
大手メディアは軒並み、防衛相の言葉になぞらい「施設区域外」を繰り返した。実に奇妙な言葉遣いで、その背景にあるのが、事故が民間地で発生したという事実を国民に知られるのを避けたいという意図=印象操作だ。
こうした印象操作は、米軍がよく使う手段でもある。昨年12月に発生したオスプレイの墜落現場を、米軍は当初、沖縄本島中部のうるま市沖と発表した。しかし同じ頃、本島北部の上空から暗闇の海を照らす米軍ヘリを何人もが目撃していた。光を頼りに『沖縄タイムス』の記者が発見したのが、名護市安部の集落近くの沿岸に横たわる機体の残骸だった。
ヘリ炎上事故についての小野寺防衛相の印象操作は成功した。結果、事故は選挙期間なのに短期間でメディアから消えた。米軍が重大事故と位置付ける事故に対する国民の反応は、翁長雄志知事が「負担軽減どころか米軍による事件事故はむしろ増えている感じがする」と語った実感とは、まるで対極にある静かなものだった。
衆院選を覆ったのも、ヘリ炎上事故と同じ静けさだった。森友・加計学園問題、改憲議論はすっかり消え去り、野党勢力はもちろん、公明党も議席を減らすなか自民党が一人勝ちした。誰もが社会の閉塞感を感じる一方、長年政権を独占してきた党が大勝する現象は、実は安倍晋三首相が言うところの「国難」をまったく実感できていない国民の姿を露呈している。
今回も全国と対極の結果を示したのが沖縄選挙区だ。4選挙区のうち3選挙区で自民候補が敗れた。その選挙期間中には、ある人物の、実感を伴った発言が報じられた。辺野古への新基地建設を推進する沖縄防衛局の中嶋浩一郎局長が20日、沖縄の負担軽減策として米軍基地の返還の必要性に触れたのだ(10月23日付『沖縄タイムス』)。
中嶋氏は、伊江島で住民の土地が米軍に強制接収された歴史や、ヘリ炎上事故に言及した後、負担軽減には「返還が必要だ」と述べたという。それは、新基地建設を巡り対立するはずの翁長知事と同じ言葉だった。
(くろしま みなこ・『沖縄タイムス』記者。10月27日号)