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文春社長、松井清人殿(佐高信)
2017年11月25日3:35PM
あなたとの出会いは、およそ30年前に遡ります。当時、あなたは『文藝春秋』の編集部員で私は駆け出しのライターでした。
同誌編集長だった堤堯氏に求められて書いた新日本製鐵(現新日鐵住金)についての拙稿が問題となり、担当のあなたに苦労をかけましたね。堤氏のよく知る『経済界』主幹、佐藤正忠氏と新日鐵首脳との関係を暴いた箇所を堤氏から削れと言われ、私が突っぱねたので、あなたは板挟みになってしまいました。結局これは掲載されませんでしたが、その一件を私は『わが筆禍史』(河出書房新社)に書きました。お目にとまりましたか?
ところで新谷学編集長下の『週刊文春』で重用されてきた元TBSワシントン支局長の山口敬之にレイプされたと告発している伊藤詩織さんの『Black Box』が御社から刊行されましたね。この本はあなたの特命事項で、社内でも知らない人が多かったとか。これで、あなたと新谷氏の関係は決定的に悪化したそうですが、権力擁護ではなく、かつての「田中角栄研究」のような権力批判の伝統に戻るということでしょうか。
新谷氏はOBの花田紀凱氏に傾倒しているようですから、あるいは辞めて『月刊Hanada』に移るのかもしれません。
ただ、心配なのは、あなたが“裸の王様”になっていて、他の社員はすべて承知のあなたの「個人的事情」を、まだ知られていないと思っていることです。それは官邸筋も把握している事情であり、とすれば、権力批判も鈍ってしまわないかと危惧します。
神戸製鋼トップのおかしい肩書
御社は社長が後継者を指名し、そのまま会長にならずに退くのが慣例だそうですね。
もちろん、あなたはそれを踏襲するつもりでしょう。まちがっても会長になって実権を握りつづけることなど考えていないと思います。
冒頭に掲げた新日鐵の人事抗争も、永野重雄会長と稲山嘉寛社長が、それぞれ合併前の富士製鐵と八幡製鐵を背負って醜い派閥争いを展開したのが原因でした。もともと、会長などというポストは一般的ではなかったのです。権力を手放したくない人間が設けて、社長との間で二頭政治になる現在の状況をつくってしまいました。
たとえば、いま問題になっている神戸製鋼のトップの川崎博也氏には会長兼社長という肩書が付いています。どうして社長だけではないのでしょうか。
この肩書を見た時、これはダメだなと思いました。それはおかしいですよと言えない雰囲気が検査データの改ざんなどの今度の事件を生んだと言ってもいいでしょう。
神戸製鋼はKOBELCOと呼ばれます。その3つの約束という企業理念の最初には「信頼される技術、製品、サービスを提供します」とあるのですから、まさにブラックジョークですね。
1974年11月号の『文藝春秋』に掲載された児玉隆也さんの「淋しき越山会の女王」の末尾に児玉さんはこう書いています。もちろん承知でしょうが、この引用であなたへの手紙を結びます。
「取材の後半から原稿執筆の間に、『おやめになった方が身のためです』という、重苦しい一方的な“助言”が再三ならず、あった。助言の主は、現職閣僚一人、党三役一人、政治評論家一人、その他数人の代議士である。私の知るかぎりでは、“助言”は佐藤昭の意を受けたものではなさそうで、“佐藤昭”の意を勝手に先取りしたとみえる使者の個人プレイだった」
それでも掲載した『文春』ジャーナリズムの灯を消すことのないように願っています。
(さたか まこと・『週刊金曜日』編集委員、11月10日号)
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