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ナイキなど有名企業の税逃れ暴く「パラダイス文書」(佐々木実)

2017年12月1日7:30AM

タックスヘイブン(租税回避地)と世界各国の政治家や企業、著名人との関係を暴いた「パラダイス文書」が波紋を広げている。トランプ政権のウィルバー・ロス商務長官とプーチン大統領に直結する企業とのつながり、英国のエリザベス女王の個人資産が英領ケイマン諸島のファンドで運用されていたなどなど、あまたのスクープが一挙に発信された。

1年半あまり前の「パナマ文書」と同じく、『南ドイツ新聞』にもたらされたリーク情報をもとに、国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)を通じて各国のメディアが取材、分析を進めた結果としての国際的なスクープ報道である。

今回の「パラダイス文書」では、どのようにタックスヘイブンがビジネスに利用されているのかも報じられている。たとえば、米国のスポーツ用品大手「ナイキ」。ロゴ「スウォッシュ」の商標権を所有する子会社を英領バミューダ諸島に設立、欧州での販売収益を「ロゴ使用料」の名目でこの子会社に移していた。2010年からの3年間だけでも38億6000万ドル(約4400億円)が子会社に移されたという。

有名企業ではないが、同じく英領バミューダ諸島に登記された医療機器メーカーのビジネスも興味深い。この企業のストックオプション(新株予約権)や未公開株を各国の医師や病院が取得していたことが明らかになったが、仙台厚生病院に勤務経験がある3人の医師も含まれていた。仙台厚生病院はこの企業の製品の治験を行なっていて、病院もストックオプションを使って売却益を得たという。

日本のメディアでは『朝日新聞』、共同通信社、NHKが「パラダイス文書」の取材に関わった。『朝日新聞』の奥山俊宏記者によると、出資のスキームを描いたチャートやタックスヘイブン法人の役員会の議事録などの資料が数多く含まれており、過去の秘密文書と比べてもパラダイス文書の内容は充実しているという。

〈当事者の目的は様々だ。税制だけでなく、外国人労働者使用の制約、労働法制、情報開示義務、為替管理法や会社法などの本国の規制を避けようとするケースもある。ほとんどは適法の範囲に収まっているとみられる〉

タックスヘイブンはまるで国境を超えた「特区」である。税を免れることができるだけでなく、情報公開の義務などもすべて免除される。「特区」に例えるのは、タックスヘイブンを利用した「逃税」が基本的には「合法」だからだ。実際、ナイキのように誰もが名前を知る企業が堂々と活用している。日本の企業も例外ではない。

英国の研究団体の推計では、タックスヘイブンにある金融資産は2010年時点で米国の国内総生産(GDP)の1・5倍に相当(21兆〜32兆ドル)するという。グローバル企業や有力政治家、富裕層にとって、タックスヘイブンは使い勝手のよい「特区」としてすでに十分機能している。

「パナマ文書」や「パラダイス文書」のような国際報道が今後も繰り返されるなら、世界は大いなる矛盾をはらんでいることになる。スクープの衝撃にもかかわらず、いつまでたっても制度の抜け穴が塞がらないことを証し立てることになるからである。

(ささき みのる・ジャーナリスト。11月17日号)

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