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米軍基地がなければ殺人事件は起こらなかった(黒島美奈子)
2017年12月5日7:00AM
いかなる刑事裁判も、有罪判決が出るまで被告は「無罪推定」だ。刑事訴訟法や国際人権規約にある。けれど11月16日、沖縄県の那覇地裁で初公判が開かれた裁判の「有罪」は、ある意味ですでに確定している。
昨年5月、県内の当時20歳の女性が、道路脇の雑木林で無残な遺体となって発見された。女性が行方不明となって約1カ月後、県警が逮捕した元米海兵隊員で当時軍属だったシンザト・ケネス被告の供述通りの場所だった。
あれから1年半以上たち、地検がケネス被告を殺人・強姦致死・死体遺棄の罪で起訴する裁判員裁判が始まった。この原稿を書いている時点で第2回公判が終了。冒頭陳述で検察側は、被告が女性を強かんして殺害し遺棄する計画をたてて実行したと主張した。
弁護側は、強姦致死と死体遺棄の罪を認める一方、被告の目的は強姦であり、殺すつもりはなかったとして殺人罪を否定した。この後、11月24日に論告求刑・最終弁論があり、12月1日には判決が出る予定だ(編注)。裁判の焦点は、検察と弁護側の双方が争う殺人罪の適用の有無で、ケネス被告の罪状は裁判員たちの判断に委ねられる。
一方、この事件に関する日本政府の有罪は、女性が行方不明となった時点で確定している。政府は戦後、県民が県知事選や国政選挙をはじめ県民投票や世論調査そのほかさまざまな形で示してきた民意に逆らう形で、在日米軍基地を沖縄に集中させてきたからである。
米軍関係者すべてが犯罪に手を染めるわけではない。しかし性暴力をはじめ多くの凶悪犯罪が、米軍内で発生していることは事実だ。米国防総省は2012年10月から16年9月までの4年間に、米軍施設内で起きた性的暴行被害の件数が2万5000件以上と公表した(11月19日付『沖縄タイムス』)。
全国知事会の「米軍基地負担に関する研究会」によると、08年から8年間に全国で発生した米軍人などによる犯罪摘発件数のうち、47%を沖縄で占める(7月29日付『同』)。『沖縄タイムス』の調べによると、復帰(1972年)後から2014年までに米軍関係者による刑法犯罪の検挙件数は5862件に上る。
以上が、県民の多くが「米軍基地がこれほどまでに集中していなければ、事件事故はなかった」と考える論理的な理由だ。だから、被告の代理人が冒頭陳述の締めくくりとして、裁判員たちに向けた発言には異論を唱えたい。
代理人は「基地の集中する沖縄で、連日多くの報道がされた。抗議する県民大会も開かれた。反米軍基地とリンクされたが、米軍や基地の問題ではない。公平公正な立場で臨んでください」と述べた。しかし、米軍人向けに発行される米紙『星条旗新聞』は今年2月14日、弁護側供述調書の内容として、ケネス被告が「沖縄では性犯罪を起こしても処罰されることが少ない」「逮捕される不安はない」と話したと報じている。
事件が、在沖米軍関係者の立場を利用して行なわれたことは明らかだ。多くの県民の懸念のまさにその通り、米軍基地がなければ、事件は起こらなかったのである。
この原稿の締め切り前日の11月19日、飲酒運転疑いの米軍車両が民間車両に衝突し、また県民1人が命を失った。これを「負担」と言わずして何と言うのだ。
(くろしま みなこ・『沖縄タイムス』記者。11月24日号)
【編注】〈元米海兵隊員で軍属だったシンザト・ケネス・フランクリン被告(33)の裁判員裁判の判決公判が1日、那覇地裁であった。柴田寿宏裁判長は殺人罪の成立を認め、「刑事責任は誠に重大で酌量の余地はない」として求刑通り無期懲役を言い渡した。弁護側は控訴を検討する。〉(沖縄タイムス公式サイトより)