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プロテストソングの力(小室等)

2017年12月9日7:50PM

 谷川俊太郎さんの全詞(詩)で、一九七八年に『プロテストソング』、三九年を経て二〇一七年の今年『プロテストソング2』というアルバムを出したら、旬報社がその二つを合わせた谷川・小室楽譜集を、対談ページを付けて出版してくれるという。『プロテストソング』と題したその楽譜集の僕の前書きから抜き出しつつ。

一九六〇年代、アメリカではフォークソング・ムーブメントの風が吹き荒れていた。ベトナム戦争に対しての反戦歌が、ボブ・ディラン、ジョーン・バエズ、バフィー・セントメリー、フィル・オクス、トム・パクストンたち、若いフォークシンガーによって次々に作られた。ディランの「風に吹かれて」はその代表曲。

キング牧師の率いるワシントン大行進の参加者たちは「ウィ・シャル・オーヴァーカム」を歌いながら行進を続けた。

六三年五月に「風に吹かれて」をリリースしたディランは、その八月にジョーン・バエズに(多分)誘われてワシントン大行進に参加し、特設ステージで「しがない歩兵」を歌った。黒人の公民権運動活動家メドガー・エヴァーズが家族の見ている自宅前で射殺され、犯人の白人が陪審員全員が白人の法廷で“無罪”になるという実際の事件をもとにディランは「しがない歩兵」を作り、その中で、犯人もチェスゲームのポーン、歩兵にすぎないと歌った。それらの歌はプロテストソングと呼ばれた。

プロテストソングの旗手に祀り上げられたディランだったが、プロテストソングは通用しないといち早く見抜き、プロテストソングを歌わなくなって久しい。

メディアが注視する公的なシーンで、一国の首相に向かって悪びれることなく人殺しの道具を売りつけようとするセールスマン大統領。日本のメディアは怒りもせずスルーし、和気藹々の出来レースのお手伝い。白人至上主義者に肩入れしていると批判されるトランプ米大統領。公民権もへったくれもない。「あんな部落出身者を日本の総理にはできないわなあ」発言者が元総理で今副総理、同じ穴の貉。

このような光景を前に、しかしディランはもうあの日のように歌うことはないだろう。

そういうおまえは?

六〇年代、「風に吹かれて」や「ウィ・シャル・オーヴァーカム」に刺激され、僕もプロテストソングを歌った。得意げに上から目線で。それじゃだめだよね。

さて今日、成立しそうもないプロテストソング。谷川さんの言葉の力を借り、僕たち流プロテストソングにあらためて挑戦してみた。

(こむろ ひとし・シンガーソングライター、11月24日号)

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