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【憲法を求める人々】辻野晃一郎(佐高信)

2017年12月17日9:10AM

『週刊文春』2015年10月1日号の辻野の連載コラム「出る杭は伸ばせ!」を読んだ時は、いささかならず驚いた。現代の日本に「戦争で儲ける国にしないために」と努力している経営者がいることを知ったからである。辻野はソニーに入り、グーグルの日本法人社長を経て独立起業した。

この連載は政治コラムではなくビジネスコラムだったが、「戦争と経済」について考えてみたいとして、同年秋、ロンドンで開かれた「国際防衛装備品展示会」に触れ、「残念ながら、歴史的に、戦争は、最先端の技術開発を促すと共に、市場拡大や需要喚起など、経済を拡大させる手段として位置付けられてきた」と指摘しながら、次のように結んでいる。

辻野はTBS系「サンデーモーニング」のファンで、その番組での私の発言がこのコラムを書く契機となったらしい。

「評論家の佐高信氏は、『戦争は一番確実に儲かって楽な商売で取りっぱぐれがない』と発言している。実際に、太平洋戦争の背後には旧財閥の存在があった。財界が経済活動拡大の為に戦争を要求するようになる構図が存在したのだ。戦後、平和憲法の下、戦争放棄をした我が国は、『軍産複合体』化した戦前の国家体質を反省し、軍事と経済活動を相容れないものとして切り分けてきた。いわゆる『死の商人』ビジネスとは一線を画してきたのだ。しかし、一連の安保関連法案成立の裏で、ついにその歯止めも取り払われた。(中略)
我が国を、戦争で儲ける国などに決してしない為、今を生き、未来に責任を持つ経済人の良識が問われている」

これを読んで私は、ああ、井深大のソニー・スピリッツは生きているんだな、と感慨深かった。

井深にインタビューした時、
「アメリカのエレクトロニクスは軍需によってスポイルされる」
と井深が言い切ったのが忘れられない。

生意気な奴を歓迎するというほど個を大切にするソニーに望んで入った辻野は、同期の新入社員が文系理系合わせて800人近くいることにガッカリした。

それで研修の時に人事の人間に
「何でこんなに大勢採るんだ? ソニーはそもそも少数精鋭なんじゃないのか」
と文句を言った。

そんな辻野が、みそぎ研修をやらせるような会社ファシズムの東芝や日立に入ったら、3日ともたなかっただろう。

“財界の鞍馬天狗”の異名をもつ日本興業銀行元会長の中山素平は、1990年に湾岸戦争への自衛隊派遣が論議されていた時、それに反対し、こう断言した。

「平和憲法は絶対に厳守すべきだ。そう自らを規定すれば、おのずから日本の役割がはっきりしてくる」

その系譜にある辻野に改めて憲法観を尋ねると、
「立憲国家にとっての憲法は、コンピュータでいうところのOSのようなもので、時代に合わせて見直したり変える議論はあるのがむしろ健全だと思いますが、それは100%国民の為でなければならないし、戦争放棄、平和主義、人権主義、国民主権など、不変であるべきところは絶対にいじってはいけない」
という答が返ってきた。

そんな辻野を松元ヒロの「憲法くん」のライブに案内したら、盛大な拍手を送っていた。シャレのわかる還暦青年である。

(さたか まこと・『週刊金曜日』編集委員、12月1日号。画/いわほり けん)

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