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官僚のブラック勤務は改善できるか(西川伸一)

2017年12月19日2:20PM

『選択』という月刊誌を定期購読している。12月1日に届いた今月号の「マスコミ業界ばなし」には、『朝日新聞』が朝刊最終版の締切り時刻を早めることが紹介されている。すでに11月から土日の朝刊については実施されて「整理部の社員の多くが最終電車で帰れるようになった」。平日の締切りも今年度中に繰り上げられる予定だという。

それで思い出したのが、11月15日の衆議院文部科学委員会での質疑を前に、政府に対する野党側の最後の質問通告が当日の午前5時ごろになった件だ。20日の自民党役員会で指摘が出た(11月21日付『産経新聞』)。

八百長質疑になっているとの批判もあるが、私は事前の質問通告は「必要悪」だと考えている。共産党の佐々木憲昭元衆院議員は自身のブログ「奮戦記」2014年6月5日付にこう書いている。「私の場合は、可能な限り詳しく通告しています。特に数字を答弁させたいときは事前に通告しておかないと正確な答えは出てきません」(http://kensho.jcpweb.net/hunsenki/140605-105200.html)。

質問通告を待機している官僚たちは、それを受けて答弁を作成する。私は先の報道に接して、「国会待機の官僚は徹夜で待ち続けて、答弁を書いたのだ。野党の想像力はそこまで働かないのか」とツイートした(@azusayui)。すると某省に勤務する私のゼミの卒業生から「いいね!」が押された。

とはいえ、国会も官僚のブラック勤務に無関心だったわけではない。14年5月27日には 自民党、公明党、民主党、日本維新の会、みんなの党、結いの党および新党改革の7党が「国会審議の充実に関する申し合わせ」で合意した。その第6項には「充実した質疑と、国家公務員の過剰な残業是正等を行うため、すみやかな質問通告に努める」とある。公明党の伊佐進一衆院議員は「いまでも自公両党は、前々日の18時までに通告する態勢をとっています」と胸を張る(@isashinichi)。

これに加わらなかった野党の主張も聞こう。社民党は同日付で「談話」を発表した。「通告の遅れを名目に野党の質問権を制約しかねないことが懸念される。直前に日程が決まる場合(略)速記録や他委員会での答弁を確認して効果的な質問を組むということも難しくなる。審議方法の総合的な検討を抜きにした質問通告の前倒しでは審議の希薄化にすぎない」。

確かに一理ある。だが、私には答弁作成に携わった元官僚の次の告白が重く響く。「しつこい質問を繰り返してくる野党議員に対しては心底腹が立ったものだ。(略)また今夜も徹夜になっちゃうじゃないか……!?/そこには、そもそもその政策が本当に国のためになるものなのか? 彼の仕掛けてくる質問はなるほど妥当性のあるものなのか? そうした判断は一切差し挟まれていなかった。いまとなっては反省点とともに、あの時の自分を思い出す」(西村健『霞が関残酷物語』中公新書ラクレ)。

官僚に野党への憎悪感を募らせるばかりか、彼らを判断停止状態に追い込んでしまうのだ。野党が通告を遅らせ、官僚を疲弊させて溜飲を下げているとしたら、了簡違いもはなはだしい。せめて終電で帰れるくらいの配慮はすべきではないか。それでも「過労死ライン」は優に超えていようが。

(にしかわ しんいち・明治大学教授。12月8日号)

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