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伊方原発運転差止決定の破壊力(伊田浩之)

2018年1月24日4:30PM

原発の運転を差し止める全国初の高裁判断が示された。四国電力伊方原発3号機(愛媛県伊方町)の運転差し止めを松山・広島両市の住民4人が求めた仮処分申請の即時抗告審で、広島高裁の野々上友之裁判長が2017年12月13日、2018年9月30日まで運転を認めない決定を出したのだ。理由は噴火による危険性。全国の原発訴訟に及ぼす影響は大きい。

12月13日、広島高裁前で伊方原発3号機の運転差し止めを認めた決定を喜ぶ支援者たち。(撮影/伊田浩之)

12月13日午後1時半すぎ、河合弘之弁護士(73歳)が広島高裁から駆け出してきた。彼は、脱原発弁護団全国連絡会の共同代表。数多くの原発訴訟を担っている。

待ち構えていた支援者たちはとまどった。事前の打ち合わせと違う。運転差し止めが認められた場合は3人が出てきて垂れ幕を掲げる、認められなければ2人が垂れ幕を出す手はずだった。垂れ幕を持って出てくる人数で、少しでも早く結果を知らせる仕組みだ。だが、河合弁護士ひとりだけが走ってくる。

河合弁護士がA4判の決定要旨を掲げて叫んだ。「勝った」。高等裁判所が史上初めて原発の運転禁止を命じたのだ。

抗告人の一人で被爆3世の会社員、綱崎健太さん(37歳)は「原発は無差別被曝装置。広島、長崎から福島まで多くの被ばく者が出たが、高裁が原発を止める時代になった」と喜んだ。周囲からは「本訴で負けた場合、四国電力が莫大な損害賠償を求めてくる可能性がある。若い人は仮処分に参加しないほうがよい」と忠告されたが、強い意志で参加を決めたという。

3・11以後で最も重要な決定

 野々上裁判長は決定で、阿蘇山(熊本県)が過去最大規模の噴火をした場合、火砕流が伊方原発の敷地に到達する可能性は十分小さくないと指摘した。

原子力規制委員会が定めた新規制基準の内規、「火山影響評価ガイド」(火山ガイド)は、噴火規模が推定できない場合、過去最大の噴火を想定して評価すると定めた。阿蘇山の過去最大の噴火は約9万年前だ。

午後3時すぎから広島弁護士会館で開かれた住民側の記者会見で、河合弁護士は次のように強調した。

「火山事象に対する問題点は、全国の原発においても同様に当てはまる問題であるから、他の原発においてもこの点を追及していく」「水平展開できる極めて重要な部分です」

噴火の危険性について他の裁判所はこれまでどのように判断していたのか。脱原発弁護団全国連絡会のもう一人の共同代表、海渡雄一弁護士(62歳)が、広島と同時刻に東京の司法記者クラブで説明をしていた。

「火山の危険性を最初に本格的に取り上げたのは川内原発1・2号機(鹿児島県薩摩川内市)の運転差し止めです。2015年4月22日、鹿児島地裁(前田郁勝裁判長)が仮処分の決定を出し、火山については〈火山ガイドは合理的。噴火はかなり前に予知できて使用済み核燃料などを運び出すことが可能〉としました。この判断の当否がずっと問題になってきたのです。

この決定を不服として住民側は即時抗告をしました。そして福岡高裁宮崎支部(西川知一郎裁判長)が16年4月6日に決定を出しました。火山にかんしては、われわれ住民側の主張を多くの点で認めています。〈火山の噴火時期や規模を相当前の時点で的確に予想することはできない〉としたのですが、火山事象に基づいて原発を止めるような社会通念はないとして、まれにしか起きないから無視してかまわないとしました。

あまりにも法論理が異常でした。ただ、この福岡高裁宮崎支部決定の事実認定が、17年3月30日に出た広島地裁(吉岡茂之裁判長)の仮処分決定にも引き継がれたのです」

つまり、どの程度の規模の噴火がいつ起きるか事前に予測することは困難との事実認定を、多くの裁判所はしてきた。ただ、破局的噴火は1万年に1回程度とされているので、考えなくてよいとしたのだ。

前出の海渡弁護士がこう指摘する。

「今回の広島高裁の決定は、めったに起きないから無視してよいという“社会通念論”はおかしいとはっきり示してくれました。単純に、火山ガイドに基づけば伊方は原発を建ててはいけなかった場所だと明示したのです。東日本大震災が起きた3・11後の原発訴訟で最も重大な決定です」

広島弁護士会館の会見場に話を戻そう。中野宏典弁護士(39歳)が全国の訴訟に及ぼす影響を説明する。

「火砕流が到達する危険性がある核施設は、九州の川内原発や玄海原発、青森県六ヶ所村の再処理工場などがあります。さらに広島高裁の決定は、噴石や火山灰など降下物の厚さや大気中濃度についても四国電力の想定は過小としています。これは全国の原発訴訟に影響を与えます」

差し止めの予感

「厳しい決定」と繰り返す四国電力の瀧川重理登・原子力本部原子力部副部長(右)。(撮影/伊田浩之)

住民側や弁護団は、広島地裁の決定が覆る可能性を感じ取っていたという。広島高裁は、四国電力と住民側に地震動の合理性や火山の危険性などの説明を文書で求め、二度の審尋でも論点を明確にして熱心にたずねていた。「論点や問題意識をはっきりと明示して繰り返したずねるのは、他の本訴や仮処分でも例がなかった」(住民側弁護団)

だが、四国電力にとっては「想定外」。決定が出たあと、広島高裁近くの路上でぶら下がり取材に応じた四国電力原子力本部原子力部の瀧川重理登副部長は「極めて残念であり、到底承服できるものではありません」「早期に仮処分命令を取り消していただけるよう、(略)速やかに異議申立ての手続きを行います」との会社コメントを配布。決定内容を精査していない段階とはいえ、質問に「厳しい判決」と繰り返した。

四国電力は異議申し立てに加え、決定の効力を一時的に止める執行停止を広島高裁に申し立てるという。(編注:四国電力は2017年12月21日、敗訴部分を取り消すよう広島高裁に異議を申し立てた。決定の効力を一時的に止める執行停止も申し立てている。)

伊方原発の包囲網

四国電力伊方原発。手前左が3号機。(撮影/伊田浩之)

伊方原発3号機をめぐっては、立地県の愛媛だけでなく、今回の広島にくわえ、大分と山口でも訴訟が起きている。抱えている訴訟の数は最多だ。

その背景には、同原発が日本で最も危険な原発のひとつと言われていることがありそうだ。伊方原発は、全長1000キロメートル以上に及ぶ断層帯、中央構造線の近くにあり、しかも、伊方原発3号機の建設時点で四国電力は活断層だと把握していなかった。

広島高裁は今回、地震の影響などについて「伊方原発が新規制規準に適合するとした原子力規制委員会の判断も合理的」としたが、住民側は反発している。

新たな科学的な知見も出ている。四国電力は、活断層は原発敷地の沖合約8キロメートルを通っていると主張するが、わずか600メートル沖にあるとの疑念が急浮上した(本誌16年10月21日号参照)。直下型大地震の危険性があらたに指摘されているのだ。

さらに、原発から西側の半島に暮らす人々の避難計画を立てることも難しい。

見過ごされがちな論点もある。映像作家の想田和弘さんのツイート(12月14日)は、2000以上リツイートされ、共感が広がった。

〈いつのまにか「活断層や火砕流到達の可能性がなければ原発は安全」みたいな前提が作られてしまっているけど、そうじゃないでしょう。実際、チェルノブイリ事故もスリーマイル事故も、自然災害などなかったのに起きました。そのことを忘れちゃダメです〉

(いだ ひろゆき・編集部。2017年12月22日号)

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