安倍首相の年頭所感は実現可能か(高橋伸彰)
2018年1月29日7:00AM
安倍晋三首相は就任6年目を迎えた今年元日の年頭所感で「本年は、『実行の一年』であります(中略)2020年、さらにその先を見据えながら(中略)改革を力強く進めていく」と述べた。
一見すると新たな決意だが、内実は3年前の年頭所感で誓った「今年は(中略)改革を推し進める。日本の将来を見据えた『改革断行の一年』にしたい」をリセットしたに過ぎない。
事実、2年前の年頭所感では誓い通りに改革が進まなかったことから、旧い3本の矢に新しい3本の矢を加え「挑戦、挑戦、そして、挑戦あるのみ。未来へと、果敢に、『挑戦する一年』とする」と嘯いた。その顛末が2016年6月1日の記者会見における世界経済の危機を口実にした消費税率引き上げの再延期表明だったことは記憶に新しい。
そして1年前の年頭所感では性懲りもなく「本年、安倍内閣は、国民の皆様と共に、新たな国づくりを本格的に始動します。この国の未来を拓く一年とする。そのことを(中略)強く決意しております」と国民に誓ったが、叶わないまま解散権を行使し、いわゆる「モリカケ」の疑惑隠しも兼ねて総選挙を断行したのだ。
誓うだけで結果が伴わないアベノミクスの実態は、安倍首相が5年間の成果として強調する「11%以上成長し過去最高を更新」した名目GDPの中身をみれば明らかになる。確かに、名目GDPの実額は民主党政権末期の2012年10-12月期と比して2017年7-9月期には、季節調整済み年率ベースで493.0兆円から549.2兆円に56.2兆円、率にして11.3%増加した。
しかし、GDPの過半を占める家計最終消費支出は同期間で283.2兆円から294.6兆円と金額で11.4兆円、伸び率で4.0%の増加に止まっている。かりに、名目GDPと同じ率で増えていたなら、家計消費は同期間で283.2兆円から315.5兆円に32.3兆円増加した計算になる。この315.5兆円と現実の294.6兆円の差額20.9(同期間の累積で約50)兆円、国民一人あたりで17(同約40)万円強に及ぶ「失われた」消費こそ、実感なき回復の正体ではないか。
家計消費が増えないのは賃上げが不足しているからだけではなく、二度の消費増税延期によって持続可能な社会保障制度の確立が先送りされ若年層中心に将来不安が高まっているからだ。
実際、長さだけをみれば「いざなぎ景気」を抜いた今回の景気拡大も、マクロ経済学者の吉川洋氏ほかによれば「労働市場の逼迫を別にすると必ずしも『好況感』は生まれてきていない。2012年末にスタートしたときには円安、株価の上昇などを背景に生まれたアベノミクスへの期待も次第に色あせてきた」(日興リサーチセンター「低迷する消費」)という。
年頭所感では「改革断行」とか「挑戦」とか「未来を拓く」とか耳あたりの良い言葉を並べ、いざ実現が危うくなると衆議院の解散権まで濫用して責任逃れを図る安倍首相の誓いを、国民はどこまで信じ続けるのか。今秋に控えた自民党総裁3選というリセットボタンが押される前に、私たちはあらゆる機会を通してアベノミクスの欺瞞を剔出するべきだ。そうでなければ未来は拓けない。
(たかはし のぶあき・立命館大学国際関係学部教授。2018年1月12日号)