一審破棄差し戻し判決に喜ぶ禰屋町子さん（中）と、上告審を闘う小原淳さん（左）、須増和悦さん（右）。広島高裁岡山支部。（撮影／三宅勝久）

零細企業の確定申告書づくりを機械的に手伝っただけで脱税幇助と税理士法違反という犯罪者にされた――およそ民主的な法治社会とは言いがたい事件が岡山で起きている。いわゆる「倉敷民主商工会（民商）事件」だ。

広島高裁岡山支部（長井秀典裁判長）は１月12日、倉敷民商事務局員の禰屋町子さん（清水善朗弁護団長）に対し、懲役２年執行猶予４年を言い渡した一審岡山地裁判決には「訴訟手続きの不備がある」として、これを破棄して同地裁に差し戻す判決を言い渡した。

民商は中小自営業者の会員制全国組織。経理や税務の勉強をする自助組織で、消費増税に反対するなどの活動にも取り組んできた。事件が、民商組織を弾圧するため税務当局と検察当局によって捏造された疑いは濃厚になってきた。

発端は２０１３年５月に遡る。Ｉ建設という倉敷民商会員企業が法人税法違反（脱税）をしたとして、広島国税局が同社と倉敷民商、そして担当事務局員の禰屋さんの自宅を家宅捜索し、パソコンや会員名簿など大量の資料を押収したのだ。Ｉ建設と無関係のものも多数持ち去った。続いて翌14年１月、倉敷警察署が、「Ｉ建設と共謀して脱税を行なった」という法人税法違反容疑で禰屋さんを、２月に事務局長の小原淳さんと事務局次長の須増和悦さんを税理士法違反（税理士資格のない者による税理士業務）容疑でそれぞれ逮捕した。岡山地検は禰屋さんを法人税法違反（脱税幇助）と税理士法違反の罪で起訴、小原さんら２人も税理士法違反で起訴した。

奇妙なことには、脱税の主犯であるＩ建設の社長と妻は逮捕されず、在宅起訴だった。一方、黙秘と否認を貫いた禰屋さんはじつに４２８日も勾留された。この間、取り調べを行なった検察官から執拗に「自白」を強要されたという。

【地裁の責任も重大】

検察による「脱税のストーリー」は疑問だらけだ。

Ｉ建設は自身で会計ソフトを使って経理を行なっており、民商の禰屋さんには年に数回程度相談しながら、自身で申告書を作って提出してきた。禰屋さんが力を貸した部分というのは申告書の印刷だけだった。Ｉ建設のソフトでは確定申告書類がうまく印刷できなかったため、禰屋さんは同社が作成した決算書のデータを倉敷民商のパソコンに入力して申告書を印刷した。この行為が「税理士法違反」と「脱税の幇助」という重大犯罪にされてしまったのだ。

Ｉ建設の「脱税」も疑わしい。３年度で６０００万円を脱税したというのだが、裏帳簿や「たまり」（隠し利益）は存在しない。税務署に提出した確定申告書をみればだれでも簡単に把握できる状況だった。税務署は修正申告の指摘をしていない。悪質な脱税の場合に科せられる重加算税が科せられた証拠もない。

矛盾に満ちた広島国税局や岡山地検のやりかたに対して、岡山地裁の態度は「法の番人」の名に値しない。自分で勉強して確定申告をするという民商の歴史と仕組みを無視、検察の言うがままに小原さんと須増さんの税理士法違反を認めて、懲役10月執行猶予３年の有罪を言い渡した。現在無罪を訴えて上告中。

そして禰屋さんの法人税法違反については、検察側が「脱税幇助」の立証に苦労しているとみるや、捜査にかかわった広島国税局の木嶋輝美査察官が作成した報告書を「鑑定書」として採用、あたかも第三者の専門家が作ったかのような代物に仕立てあげて、懲役２年執行猶予４年を言い渡したのだ（江見健一裁判長）。

広島高裁岡山支部が江見判決を破棄差し戻しにした大きな理由は、この「鑑定書」にある。「作成過程から著しく信用性を欠いている」「（作成者の木嶋査察官は）鑑定人としての適格を欠（いている）」として証拠能力を否定した。

一審破棄差し戻し判決に禰屋さんは、２００人以上の支援者らと抱き合って喜び、「みなさんに支えられてここまできた。私は無罪です。引き続きご支援をお願いしたい」と力強く語った。

（三宅勝久・ジャーナリスト、2018年１月26日号）