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安倍首相、報復の祭典!?(佐藤甲一)
2018年2月7日3:04PM
2018年となりわずか1カ月も満たない間に朝鮮半島をめぐる情勢は急転した。北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)の金正恩委員長が平昌(ピョンチャン)オリンピック・パラリンピックへの参加に前向きな姿勢を示したのが1月1日。翌日に文在寅韓国大統領がこれに応じるとわずか2週間程度で、北朝鮮の参加は現実のものとなった。
とはいえ、脇目もふらず、あらゆる対話の呼びかけを無視して核・ミサイルの開発を急いできた北朝鮮が、ここで心を入れ替えたと思う国はないだろう。あくまで、核保有を世界に、何より米国に認めさせるための外交ゲームが始まった、というわけだ。
ならば、「平昌」はオリンピック開催地であると同時に、世界が注視する国際外交の「最前線」にほかならない。彼の地で北朝鮮はどのような動きに出るのか、米国のペンス副大統領と北朝鮮側の電撃的な接触はないのか、まさに時々刻々、朝鮮半島の平和をめぐって緊迫した外交が動き出す舞台と化すのである。
ところが日本のトップリーダーの意識はあまりにも低い。安倍晋三総理は「慰安婦」問題をめぐる日韓合意を文政権が事実上反故にしたことへの「報復措置」として、開会式欠席の方針を内々固めてきた。
韓国の新方針は確かに国際的な信義に悖る行為であり、日本政府が不快感を示すことは当然である。しかし、2国間関係にとらわれるあまり、平昌五輪という国際政治の渦中に赴くことの意味を熟考せず、文部科学大臣、オリンピック担当大臣らを送るので十分と考えているとしたら、まさに世界の笑いものとなるだろう。
加えて欠席すれば、外交の相互主義の視点で考えると、2020年東京五輪の開会式に韓国大統領が欠席することは必定である。双方わだかまりがある中、それを忍耐の中に包み込んで「不可逆的な」解決としたのが、15年12月の日韓合意だったはずだ。その精神を汲めば、韓国の不誠実な対応をひとまず呑み込んで、「政治とオリンピックは別物」という青臭い論理をこの際逆手にとって前面に掲げ、参加を表明すべきだった。
まさに「やられたら、やり返さないでは気が済まない」という安倍晋三総理の「心持ち」に根ざした政治手法がストレートに出てしまった「不参加方針」ではなかったか。
安倍首相にとっては幸か不幸か自民、公明の与党が表向きの理由である「国会日程優先」というハードルをとり除く方向で動き出している。国会審議の日程など基本的には与党が組み上げるものであり、首相の意向でどうにでもなる。
さらには、公明党の山口那津男代表までもが18日の記者会見で「私個人としては安倍首相が出席することを期待したい」と述べている。山口氏は、11月の訪韓時に文大統領から首相訪韓を直接要請されているだけに、そのメンツを潰すことにもなりかねない。
方針転換の環境整備は着々と進んでいる。2月9日のオリンピック開会式に臨むペンス副大統領は行程の途中で訪日し、安倍首相と会談する意向であるという。方針転換するとすれば絶好の機会でもある。
北朝鮮には「対話のための対話」は望まない。韓国には平和の祭典に対しても「報復措置」を辞さない。こうした外交姿勢が、気がついたら世界の中で孤立し「いつか来た道」を歩んでいることにならなければよいが。
(さとう こういち・ジャーナリスト。2018年1月26日号)
〈編注〉安倍晋三首相は1月24日午前、韓国で開かれる平昌冬季五輪開会式について「事情が許せば出席したい」と明らかにした。官邸で記者団に語った。