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【憲法を求める人々】大石芳野(佐高信)
2018年2月9日7:00AM
ノーベル物理学賞を受けた湯川秀樹や日本婦人団体連合会会長の平塚らいてうらが始めた「世界平和アピール七人委員会」は現在、上智大教授の島薗進、作家の高村薫、慶大名誉教授の小沼通二、作曲家の池辺晋一郎、国際政治学者の武者小路公秀、名古屋大名誉教授の池内了、そして写真家の大石で構成されている。生前は井上ひさしもそのメンバーだった。
大石は戦争や紛争の地に足を運んでカメラを向けるが、その中で暮らす、あるいは暮らさざるをえない人びとを撮ろうとしている。
私は大石と何度か対談したが、ある時の対談前記にこう書いた。
〈コンデンスされた人だと思う。詰まっている人である。しかも自分ではそう思っていないらしく、少しもぶることがない。前に対談したときに、「ヘタリこむことはあまりないでしょう?」と尋ねたら、笑って、「終わってからヘタリこみますよ」と言われた。「それはヘタリこまないということですよね」と返したが、小柄な大石さんのどこにそんなエネルギーが潜んでいるのか。
大石さんはまた、いつも疑問を絶やさない人である。どうしてなのかと常に考えている。そんな生真面目さをもった同年代の彼女に今度は少し横から崩して迫ってみようと思ったが、あまり成功しなかった。左横から攻めようとすると、体をそちらに向けて正対する。右横から攻めても同じ。かといって堅苦しいわけでもない大石さんの魅力をうまく伝えられたかどうか、ちょっと不安が残る〉
「軍事力よりも力のあるものが憲法九条だ」と考え、海外の取材先でそれを紹介することで、ささやかな民間外交を行なってきたと密かに自負していた大石が、恥ずかしくなって海外に出向くことに消極的になったのは安倍(晋三)内閣が集団的自衛権を認めることを閣議決定してからだった。その安保法制反対の集会で何度か彼女と一緒になった。
しかし、「戦争は終わっても終わらない」と考える大石がいつまでも心屈しているわけがない。
落合恵子を含めて私たちはほぼ同い年だが、大石と落合の書く字が似ているのである。よく言えば奔放でハネている。要するに枠におさまらない大石はすでに立ち上がって、会話のキャッチボールをしながら世界の苦しむ人たちの写真を撮っている。
私は大石の『小さな草に』(朝日新聞社)といったエッセイも好きだが、1986年夏に出した写真集『沖縄に活きる』(用美社)で彼女は「共有し合うこと」と題して、こう書いている。
「沖縄の空と海は青く、引き込まれそうに澄んでいる。けれど、私たち多くの日本人は、沖縄に漂う暗いかげりに陽気になれない『何か』を感じる。それは、沖縄の色彩が、ひとつひとつは眩しいほどにあざやかなのに、離れて眺めると、逆に淋しく見えるのに、似ている」
いろいろ探したら、大石の『カメラを肩に見た世界』(労働旬報社)というブックレットが出てきた。「メッセージ21」というシリーズの21冊目で、表紙に40代の彼女の写真が出ている。20冊目が私の『日本の会社と憲法』だった。
もちろん、大石の風貌は現在とはかなり違っているが、はかなげなおもかげは同じである。傲岸不遜とは対極にある、ちょっと不安な感じさえ漂わせるまなざし。私たちはやはり終われない人なのだろう。
(さたか まこと・『週刊金曜日』編集委員、2018年1月26日号。画/いわほり けん)
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