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ミサイル攻撃受けても保障の仕組みはない(黒島美奈子)

2018年2月24日5:55PM

戦争被害への国家賠償は、また認められなかった。

太平洋戦争中に旧南洋群島などで戦禍に遭った住民と遺族44人が、国に損害賠償と謝罪を求めた「南洋戦国賠訴訟」で、那覇地裁(剱持淳子裁判長)は1月23日、「国は民法上の不法行為責任を負わない」などとして請求を棄却した。

かつて2010年、同訴訟の弁護団長・瑞慶山茂さんは「沖縄・那覇空襲被害者の会」の立ち上げに奔走していた。千葉県弁護士会会長を務めたこともある瑞慶山さんは沖縄県出身者。06年に東京大空襲の国賠訴訟に関わったことをきっかけに、古里の戦争被害に思い至ったという。

日本と同じ敗戦国のドイツは、軍人、民間人を区別せず戦争犠牲者を国が補償する。瑞慶山さんは「民間人の犠牲に目をつむる日本の姿勢は、戦争責任を直視しない政治の態度につながっていないか」と、軍人・軍属やその遺族には恩給や年金などで生涯数千万円が支給されることもある一方、民間人の補償はゼロという日本の戦後補償のあり方に、真っ向から異を唱えていた。

「法の専門家として住民の訴えを支援したい」と、沖縄で新たに弁護士事務所の拠点を構えた9年前のスタートは、住民ら79人による「沖縄戦国賠訴訟」や、前述の南洋戦訴訟へとつながっている。

しかし、道はことのほか険しい。民間戦争被害者への国賠請求は、名古屋、東京、大阪の空襲訴訟が最高裁で敗訴。沖縄戦訴訟も昨年11月、原告の訴えを棄却する高裁判決が出た。続く南洋戦訴訟の棄却だ。

各訴訟で共通するのは「戦時中、国の行為に賠償責任を認める法律はなかった」とする理屈。戦争行為に対して責任を問うこと自体おかしい――と国を免罪する考え方で、普天間・嘉手納・横田などの米軍機爆音訴訟で司法が持ち出す「第三者行為論」や、米軍駐留の違憲性を問うた砂川裁判の「統治行為論」にも通底する。

戦争被害者と、米軍基地問題の被害者に立ちはだかる司法の壁。それでも、国賠訴訟に挑み続ける理由について瑞慶山さんはこう語る。「今、仮にミサイル攻撃を受け、万が一、住民が被害を受けても補償する仕組みも論理もないのです。軍事基地が集中する沖縄は、また攻撃を受ける可能性が高い。被害を救済できない、というなら、その危険を高めない工夫を尽くすべきですが、しているでしょうか。問いたいのは、先の戦争の誤りだけじゃない。いまの政府の対応、判断なのです」(1月19日付『朝日新聞』)。

北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)への圧力強化などで「(日米両国は)100パーセント共にある」と強気一辺倒の姿勢を崩さない安倍晋三首相。これが、国の過ちを問わない司法=社会のあり方を担保にした発言だとしたら、どれほど無責任か。

「南洋戦訴訟」地裁判決後、那覇市内で開かれた集会で柳田虎一郎原告団長は「国が『ごめん、すまなかった』と言うまで頑張っていく」と控訴を誓った。その言葉が、韓国で出会った日本軍「慰安婦」被害者・朴玉善さんの「死ぬまでに日本の謝罪が聞きたい」という言葉と重なる。いまの平和のため、命をかけて過去を戒める人々の姿だ。

(くろしま みなこ・『沖縄タイムス』記者。2018年2月2日号)

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