兵庫県警機動隊で何が起きているのか、法廷で究明へ 「新隊員の自殺続発」真相は
2018年2月27日10:53AM
2015年9月から10月にかけて、兵庫県警機動隊の独身寮「雄飛寮」(神戸市須磨区)で20歳代の男性隊員2人が相次いで自殺する事件が起きた。県警監察官の調査では否定されているが、遺書や生前の言動から、いずれも先輩や上司のいじめやパワーハラスメント(地位を利用した嫌がらせ)が濃厚に疑われる。
亡くなったのは、同じ小隊の隊員である山本翔さん(享年23)と木戸大地さん(同24)だ。山本さんは15年9月28日の夜8時すぎ(推定)、木戸さんは同年10月6日の昼ごろ、それぞれ自室で自殺を図り、救命治療のかいなく死亡した。山本さんは警察官になって約2年の新人である。灘署地域課(交番勤務)から機動隊に配属されて3カ月目だった。また木戸さんは、09年に兵庫県警に入り、12年9月から機動隊で勤務していた。
山本さんは遺書のなかで、小隊の先輩3人の実名を記したうえで「先輩の嫌がらせや、上司からの嘘つき呼ばわりには精神的に限界です」などと書いた。一方、木戸さんの遺書には「K中隊長をはじめ、とてもよい職場です。どうか機動隊を悪く思わないで下さい」とあるものの、別の紙片に「Aさん(実名)あなたの思い描いた通りになってよかったですね」と、やはり先輩隊員を名指しして難じる文句がみられる。
そして両隊員の遺族によれば、2人とも生前、先輩や上司による「いじめ」に悩んでいた節があるという。山本さんは、▽意味もなく腹を蹴られる、▽弁当の注文の仕方が違ったとして「嘘つき呼ばわりされる」、▽交際相手の個人情報を提出させるなど私生活への干渉、▽訓練外での肉体的なしごき、▽潜水訓練で沈められ失神させられる、▽宴会で「一発芸」を求められる――といったことを漏らしていた。
木戸さんは、複数の先輩から日常的に暴言や暴力を受けていたことが内部調査でわかっているほか、玉掛け(クレーンの下で吊り具を操作する作業)の技能試験を受けた際に「同僚に答案用紙を見せる不正をした」という言いがかりを先輩から執拗につけられて困っていると悩んでいた。さらに出張先での宴会では「芸」を求められて裸踊りをしたこともあり、嫌がっていたという。
【隊の対応に問題か】
2人とも「自分が抑鬱症状ではないか」と自覚し、医療的な手当を求めていた様子がうかがえる。こうした悩みをかかえる若い隊員に対し、機動隊のとった行動には疑問がある。山本さんは、亡くなった日の早朝、勤務を無断で休んで病院に向かった。「機動隊はいやだ。死にたい」という気持ちが強く危機的な状態だったとみられる。ところが、この行為を上司や先輩は責め立てる。寮に戻らせ、有給休暇の手続きを取らせた上で、「聴取」「報告」「指導」を一日中続ける。そして「嘘をついた」と難詰する。翌日までに「報告書」(始末書とみられる)を書くことを命じた。自殺をはかったのは、そうした長い一日の末だった。
木戸さんは後輩の山本さんが亡くなったことに強いショックを受けていた。その弱った心にむち打つかのように先輩から「玉掛け試験の不正」を認めるよう強く迫られている。木戸さんは「不正はしていない」と言い続けており、これが大きな心の負担になった可能性がある。皮肉にも、自室で自殺したのは、メンタルヘルスのためのカウンセリングをやっていたさなかの休憩時間だった。
遺族の求めで県警監察官の調査が行なわれたが、どちらの事件も「いじめもパワハラもなかった」との結論だった。遺族が失望したのはいうまでもない。山本さんの遺族は公務災害を申請し、結果を待っている。結果次第では裁判も辞さない考えだ。木戸さんのほうは、公務災害を認めないとの結果がすでに出ている。そして「息子の無念を晴らしたい」と昨年10月、兵庫県を相手取って国家賠償請求訴訟を起こした(代理人は市川守弘弁護士)。3月22日、神戸地裁で第1回口頭弁論が開かれる。法廷での真相究明に期待したい。
(三宅勝久・ジャーナリスト、2018年2月16日号)