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『産経』『読売』「NHK」優遇する安倍首相(西谷玲)
西谷玲|2018年2月28日9:17PM
安倍晋三首相が2月9日開幕の韓国・平昌冬季五輪開会式に出席するという。そのこと自体は望ましいことだ。問題は、それを明らかにした経緯である。
首相が出席の意向を述べたのは1月24日付の『産経新聞』での単独インタビュー記事だった。同紙は1面トップで首相の写真とともに記事を載せている。同日の『読売新聞』では、インタビューではないものの首相が出席の意向を固めたと報じている。
いつもの「親安倍メディア」によるスクープ記事、と言ってしまえばそれまでだが、これは異常なことである。あまりに露骨に、そして安倍首相がしゃあしゃあと、当然のようにそれをするから私たちは慣れてしまっているけれども、実におかしな話だ。
歴代の首相、政権でここまでのことをした人たちはいない。すなわち、マスメディアを親安倍、反安倍に分けて分断し、親安倍の方にばかり情報を流す。すなわち特ダネをとらせる。
ご存知の通り、親安倍メディアとは『産経』、『読売』の両新聞とNHKである。『読売新聞』には昨年の5月3日に安倍首相が単独インタビューで登場し、改憲への強い意向を語った。その後、国会で改憲について聞かれると、首相は「読売新聞を熟読して」と答えている。もうほとんど、というか御用メディアそのものである。
NHKについても同様だ。2016年に開かれた伊勢志摩サミット。日本でサミットが開かれることになり、開催地がどこになるかが焦点になっていたとき、発表されるほんの少し前にNHKのニュース速報で流れた。このような「政府発表直前のNHKニュース速報」も何度もあった。
歴代の政権や自民党の幹部はこんなふうではなかった。もちろん、人には相性があるから、ある幹部に特定の記者が食い込んで情報をよくとることはあっても、「そういつもあそこにばかり情報を流すのはやめておこう」という節度があった。今の安倍首相にはまったくそれがない。
冒頭の『産経新聞』の「特ダネ」では、その2週間ほど前に首相は平昌に行かない方向だと報じているのである。きっと首相自身が迷っていて、その時々で『産経』は首相の「揺れる心」を記録していたのだろうが……、これを権力の監視とは到底言えないだろう。
加えて、過去であれば、たとえある幹部が特定のマスメディアを優遇したとしたら、別の幹部がバランスをきかせて他のメディアにリークしたりもしていた。安倍一強下ではそういったこともおきない。
もちろんこれは権力の側だけの問題ではなく、マスメディア自身の問題でもある。権力を監視するのではなくて、逆に権力に寄り添い、おもねる。読者の方を向いているのではなくて、権力の方を向いている。だから読者たちからの信頼を失い、「マスゴミ」などと言われるようになった。新聞が今、ものすごい勢いで読者数を減らしているのも、単にネットの台頭ばかりが原因ではないだろう。
このことばかりでなく、安倍政権を見ていると、節度とか含羞、「ため」といったものがまったくなく、身も蓋もなく露骨なやり方が目立つように思う。世の中全体がそうなっているからかもしれないが、そういう時こそ権力者は穏健にふるまってほしい、というかふるまわなければならない。
(にしたに れい・ジャーナリスト、2018年2月9日号)