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金時鐘さんのこと(小室等)

2018年3月5日5:30PM

 金時鐘さんと佐高信さんの『「在日」を生きる ある詩人の闘争史』、息苦しさなくして読み進めない。けど難解でなく、堅苦しくもない。

水戸黄門は常に正義。詩を書きたかったらまず「水戸黄門」を見ないことからはじめないといけない、という金さんに、

佐高 私はカミさんに馬鹿にされるんです。「あなたが見てるのは時代劇ばかりだ」と。
「鬼平犯科帳」なんかをつい見てしまうんですよ。あれは面白いという話をしていたら、死刑判決弁護人の安田好弘に怒られましてね。あれは裁判もなしに下手人とされた者をバッサリやる。それはだめなんだ、と。

ヨッ、信ちゃん。

余儀なく日本にやってきて、母語である朝鮮語を捨て、日本語(植民地後)を習得し、戦後、皇国の呪縛が解けて、しかし自分の戻る場所を失った金さんは「在日を生きる」決意をする。本書は佐高さんの息詰まるインタビューのおかげで、金さんからさまざまな生きるための示唆を導き出している。

話は変わるが、金さんが受賞した第四一回高見順賞授賞式は二〇一一年三月一一日、そうあの大震災の日だった。理事の一人でもあった、詩人の佐々木幹郎氏は四時間以上かかって飯田橋の会場であるホテルにたどり着き、吉増剛造、高橋睦郎さんたち十数人で金さんを待つ。

時間が経つにつれ、ロビーは帰宅難民の避難所と化し、夜遅くには毛布一枚、握り飯一個とペットボトル一本が配給され、酒類の販売は中止。金さんが会場に現れたのは午前零時過ぎ。十数人で、仮の授賞式をやったという。「3・11」は金さんの仕事を日本詩壇がはじめて認めた日だ。

〈いまでも忘れられないのは、わたしたちは酒類が禁止になったホテルで乾杯をしたのだった。金さんが新幹線の車内で飲んでいたという焼酎が、ボトルの底に五センチほど残っていたのである。それを紙コップに少しずつ分けて、全員で乾杯をしたのだ。受賞者持参の酒を飲むという前代未聞の深夜の仮授賞式だった。なんとはなやかな笑いに包まれたことだったろう〉(『瓦礫の下から唄が聴こえる』 山小屋便り佐々木幹郎)

翌年三月、年度の受賞者辺見庸さんと前年の金さんとの合同授賞式。金さんは、二回も授賞式で祝われるとは高見順賞の歴史の中で二度とない、と会場を笑わせ、〈「東北の二万に近い死者たち、死滅した植物たち、放射能汚染で殺された一万数千頭の牛たち、殺された十万頭以上の豚たちを追悼したい」〉(同)と続けたそうだ。

安倍さん、平和外交は僕らに任せた方がいいと思う。

(こむろ ひとし・シンガーソングライター、2018年2月9日号)

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