京都市の「景観損なう」との指導受け、大学側が管理強化
「京大の文化」タテカン消滅危機
2018年3月6日6:03PM
京都大学(京都市左京区)の「文化」とも称される学生による立看板(タテカン)が消滅の危機を迎えている。京都市が昨秋、大学本部キャンパス周辺に置かれた看板について、古都の景観を損なうと改善を行政指導。これを受けた大学当局が、自由に出せていた看板の規制に乗り出したからだ。学生らは「京都市を口実にした管理強化だ」と反発を強め、2月13日、学内で緊急シンポジウムを開いた。
タテカンは1960~70年代の学生運動全盛期、全国の大学で、大学当局批判や政治的主張の道具だった。だが学生運動の衰退と、国立大学の法人化(2004年)以降続く国の意向に沿う管理強化で、次々と姿を消した。その中、京大では「自由の学風」が息づいていた。
問題の発端は京都市が打ち出した新景観政策。市は12年度から、「美しい品格のある都市景観の形成」を掲げて市内全域で屋外広告物を調査し、京大周辺のタテカンも屋外広告物に当たると判断。条例の基準を守るよう指導した。
同市広告景観づくり推進室の指導では、広告物(タテカン)の大きさ・高さや色彩が条例と違う、歩道上のタテカンが強風などで倒れて通行人に危害を与える恐れがあると指摘。道路にはみ出すと不法占用にもなるとする。一部の住民から「市の景観政策に反している」という苦情も寄せられたという。
大学当局は17年12月19日付で「京都大学立看板規程」を制定。立看板設置は大学総長承認団体に限り、指定場所以外の設置を禁じる▽大きさは縦横2メートル以内、設置期間は30日以内――などと規定する。施行は18年5月1日。
緊急シンポは各学部の自治会組織や教員らでつくる「自由と平和のための京大有志の会」などを賛同団体に開催。300人を超す熱気であふれた。シンポ準備会の学生たちは、市の指導では構内は適用範囲外で、今回「規程」は市とは直接関係がない規制強化だと反発。学生との話し合いもなく、大学自治を妨げ、学内の表現手段を奪うと訴えた。アピールした院生は、タテカンは「京大が長く着てきた“服”みたいなもの。それを一方的にはぎとる規程だ」と述べた。
また、京大教員(教授)も「学内管理強化の仕組み」と題して立ち、上意下達の大学運営や無意味な改革の横行、教職員の削減「ブラック化」を厳しく批判した。シンポ賛同の学生団体は2月8日付で、大学当局に対し、「『京都大学立看板規程』に関する話し合いを求める要求書」を提出し、公開の場での話し合いを求めている。
【他大学でも厳しい状況】
筆者は2月16日、京大周辺を歩いた。商店や飲食店が並び、京大生らが行き交う百万遍交差点。大学敷地擁壁には、11個の手作りタテカンが立てかけてあった。学内のサークル新人募集や劇団公演案内などに交じり、一般市民による「子どもの居場所事業ボランティア募集」の目立つ看板も並ぶ。
正門前に行くと、「ビラ撒き規制反対」や「大学当局による権力の濫用及び人権侵害に抗議する」長文の看板も立つ。この日確認できたタテカンは計25個ほどだった。
通りがかった京大生に聞いてみた。法学部学生は「僕たちには、これが京大の景観」。総合人間学部院生は「友達と話しても、すべて肯定派。自由がいい」と話す。「京大の名物。見ながら歩く楽しみもある」とは付近に住む70代女性。
京大OBで京都市内の大学教員(53歳)はこう振り返る。
1980年代、自治会活動をしていたが、学生大会や政治情勢に応じた「軍拡反対」「核廃絶」などのタテカンを毎日のように出し入れした。大きなタテカンを固定する机を並べるのも自由。
「今は京大だけでなく全国の大学で自由にモノが言えない状況が生み出されている。企業や国家に役立つことのみにしか、大学の存在が許されないようになりつつあるのでは」と危惧する。
大学の自治と自由な空間を象徴してもいたタテカン。東大闘争を闘った東京大学では、「本郷キャンパスでも見かけなくなった」(本部広報課)という。
(土岐直彦・ジャーナリスト、2018年2月23日号)