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安倍内閣、国際公約「20年度までのPB黒字化」を破棄(鷲尾香一)
2018年3月6日2:10PM
安倍晋三内閣は2020年度までのプライマリーバランス(基礎的財政収支、以下PB)の黒字化を目指していたが、2017年12月に消費税増収分の使途変更等による幼児・高等教育無償化を盛り込んだ政策を打ち出すとともに、この黒字化目標を破棄した。
1月23日に開催された経済財政諮問会議(議長・安倍晋三首相)で、内閣府は「中長期の経済財政に関する試算」を提出した。試算では実質成長率が2020年度に1.5%、20年代前半から2%程度に達すると想定した高成長シナリオですら、PBの黒字化は昨年7月の試算より2年遅れて2027年度になると予想している。PBは、2027年度には8000億円程度の黒字になるとの見方だ。
IMF(国際通貨基金)のデータによると、2016年のPB(対GDP)は、フランスが約1.6%の赤字、ドイツが約1.8%の黒字、イタリアが約1.3%の黒字、英国が約1.3%の赤字、米国が約2.3%の赤字に対して、日本が約3.9%の赤字となっている。
また、2016年の債務残高(対GDP[国内総生産])は、フランスが約96%、ドイツが約68%、イタリアが約132%、英国が約90%、米国が約107%であるのに対して、日本は約240%と群を抜いて高い。
そもそも2020年のPB黒字化は「国際公約」だった。それが、破棄されているだけではなく、黒字化達成目標自体がどんどん先延ばしされている。もっとも懸念されるのは、黒字化目標を安易に先延ばしすることにより、財政規律が緩み、財政拡張に歯止めがかからなくなることだろう。
加えて、いくつかの懸念材料がある。もし、安倍首相の任期が2021年9月までと仮定すれば、PB黒字化は次の首相の課題となる。自らが黒字化を達成しなくてもよいとなった時に、安倍首相は財政規律を守り切ることができるか、いささかなりとも疑問だ。
消費税率10%への引き上げではその増税分を幼児・高等教育無償化などに使うことにしたため、PB黒字化のためには、10%の次の段階の消費税率引き上げが必要となるだろう。消費税率が引き上げられれば、景気に影響が出るのは「自明の理」。消費税率10%への引き上げで、景気は落ち込む可能性が高い。その上、PB黒字化に向けて、一段の消費税率引き上げが行なわれれば、景気の腰を折る可能性は高まる。
2020年の東京五輪が終われば、その反動で景気が悪化するだろう。東京五輪後の経済対策を考えれば、財政出動の可能性は高く、財政規律を厳守するのは難しいのではないか。
また、あえて加えるならば、日銀による超低金利政策の終焉は、そうした景気腰折れを防ぎ、景気のしっかりとした足取りを維持するためには、大きく先送りせざるを得ないだろう。先進国の多くが金利正常化に進んできても、日銀は超低金利政策の出口戦略すら進めることができなくなるのだ。
このように仮定するならば、PBの黒字化は先延ばしすればするほど、達成が困難になっていく。
安倍首相は、PB黒字化に対してどのような具体的な戦略を打ち出せるのだろうか。
(わしお こういち・経済ジャーナリスト。2018年2月16日号)
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